今日のことば

【原文】
物に余り有る、之を富と謂う。富を欲するの心は則ち貧なり。物の足らざる、之を貧と謂う。貧に安んずるの心は即ち富なり。富・貴は心に在りて物に在らず。〔『言志耋録』第143条〕

【意訳】
物に余りがある場合、これを富という。富を欲する心は貧しい心である。物が足らない状態を貧という。この貧の状態を心安らかに受け容れるのが富の心である。富貴というものは、物の過不足にあるのではなく、心の中にあるのだ

【一日一斎物語的解釈】
貧富とは心の問題であって、物のあるなしではない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、石崎君を連れて「季節の料理 ちさと」に来たようです。

「少年、お前は金持ちになりたいか?」

「当たり前じゃないですか! どこの世界に貧乏になりたい奴なんているんですか?」

「お前は浅はかだねぇ。金持ちじゃなければ貧乏だという、その発想の貧困さが貧乏くさいな」

「今日はお説教のためにここに連れて来たんですか?」

「そういうわけじゃないよ。まあ、とりあえず乾杯だ!」

二人はジョッキを一気に空けたようです。

「相変わらず飲みっぷりはいいな」

「このために生きているようなもんですから」

「お前はおっさんか! ママ、生お替り2つ!」

「でも課長、ウチの会社の先輩からよく聞くんですよ。家では、ビールは飲ませてもらえなくて、発泡酒がメインだとか。それってめっちゃ寂しい話ですよね。せめて毎晩ビールくらい飲める生活がしたいですよ!」

「ははは。お前の金持ちのレベルはその程度か。可愛い奴だな」

「大事なことですよ!」

「典型的な庶民だな、お前は。あ、もちろん俺もだけどな」

「知ってます」

「可愛くないねぇ。でもな、少年。本当の貧富というのは物がたくさんあるかどうかでは決まらないんだよ」

「え?」

「どんなにお金がたくさんあっても、もっと欲しいと思う心は貧しい心だ。逆に、お金はないけど幸せを感じる、それこそ発泡酒でも酒が飲めるだけで幸せだと思えれば、それは富んだ心なんだ」

「まあ、わからなくはないですけど、やっぱり俺はビールが良いです」

「お前の心は貧しくないな。富んだ心だよ」

「どうしてですか?」

「だって、毎晩ビールさえ飲めれば幸せなんだろう? それで満足できるなら立派なもんだよ」

「それって褒められてるのかなぁ? もう一回聞きますけど、お説教するためにここに連れてきたわけじゃないですよね?」

「当たり前だろ。ママ、生お替りね。あと、今日はこの店で一番高い料理を出してやってくれ。こいつ、来週の月曜日が誕生日なんだよ」


ひとりごと

少し前に、順境と逆境は心の持ちよう次第だという章句がありました。

ここでは貧富の問題も心が作り出すものだ、と一斎先生は指摘しています。

たしかに、我々庶民から見れば十分にお金がありそうな人が、さらにお金を得ることにあくせくしているのを見ると、とても違和感を感じます。

足るを知ることが心を富ませることへの第一歩ということでしょう。


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