今日のことば

【原文】
安の字に公・私有り。公なれば則ち思慮出で、私なれば則ち怠惰生ず。懼(く)の字にも亦公・私有り。公なれば則ち戦兢(せんきょう)として自ら戒め、私なれば則ち惴慄(ずいりつ)して己を喪う。〔『言志耋録』第150条〕

【意訳】
安という字には公的な意味と私的な意味がある。公的な安であれば、そこから思慮分別がなされるが、私的な安であれば、怠慢を生じてしまう。同様に懼という字にも公的な意味と私的な意味がある。公的な懼であれば、なにごとにも畏れ慎しむ気もちで自らを戒めることができるが、私的な懼であれば、恐れおののいて己を失ってしまうだろう

【一日一斎物語的解釈】
安心にも恐怖心にも、公私両面がある。公を意識するなら、どちらも大切なものとなるが、私的なものとなれば、どちらも自らを堕落させる元凶となるだろう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の善久君と面談をしているようです。

「お前、どうして恵中病院には何もPRをしていないんだよ?」

「内科トップの遠藤先生に、『業者はPRなんかするな。物を運んでいればいい』と言われたことがありまして・・・」

「なんだよ、それを1回言われたくらいで、ビビッて営業活動をしていないってのか?」

「でも、PRするなと言われたんですよ!」

「内科のトップまで行く先生が、それを本気で言っているとは思えないよ。そのときは虫の居所が悪かったのか、タイミングが悪かったのか、なにか事情があったんじゃないか?」

「それはわからないです」

「それ、いつ言われたんだよ?」

「担当になってすぐです」

「だったら、もう顔も名前も覚えてもらったんじゃないのか?」

「はい。今は名前で呼んでくれます」

「だったら営業活動を仕掛けろよ!」

「え、でも・・・」

「善久、恐怖心をもつことは悪いことじゃない。見方によれば、それは慎重さの証でもあるからな」

「・・・」

「でも、ただビビッているだけなら、それはお前にとって何の成長にもつながらない。それどころか、ダメ営業マンへの道を突き進むことになるぞ」

「はい・・・」

「遠藤先生には、このままPRをせずに対応した方が楽だろうな。でもそれじゃ、いつまで経っても信頼なんかしてもらえないぞ。楽な道と苦の道があるなら、若いうちは苦の道を選ぶべきだ!」

「大丈夫でしょうか?」

「知らねぇよ」

「ええ!」

「若いんだから、失敗を恐れずに突っ込め。ちょうど、O社が面白い製品を出したじゃないか。あれをPRして来い!」

「怒られたら、一緒に謝ってくださいね」

「やだね!」

「課長~!!」


ひとりごと

安心感も恐怖心も、善悪両面があるのだ、と一斎先生は言います。

状況に応じて、押すべき時と引くべき時があり、慎重さと大胆さの両面を使い分けるべきでしょう。

そして、自分を成長させたいと思うなら、楽の道より苦の道を選ぶしかないのではないでしょうか?

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