今日のことば
【原文】
世に惜しむ可き者有り。亀玉大宝(きぎょくたいほう)の瓦礫に渾(まじ)るは惜しむ可し。希世(きせい)の名剣、賤人之を佩(お)ぶるは惜しむ可し。非常の人材、舎(す)てて用いられざるは尤も惜しむ可し。〔『言志耋録』第156条〕
【意訳】
世の中には惜しむべきことがある。大亀の甲羅や玉石などの宝物が瓦礫の中に混じっているのは惜しむべきである。稀代の名剣が身分の低い人の身につけられているのも惜しむべきである。有能な人材が在野にあって用いられないのは最も惜しむべきことである。
【一日一斎物語的解釈】
優秀な人材が組織の中で適切に登用されないことほど、もったいないことはない。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、Aがんセンターの多田先生を訪れているようです。
「部長、N大の番場先生は、凄い技術もあるし、知名度もある割には出世されていませんよね。何故でしょうか?」
「あいつは大人し過ぎるんだよ。この世界は、ある程度自分でアピールしていかないと表には立てない世界だからな」
「そういうものですか。でも、私が言うのも失礼かも知れませんが、なんだかもったいないですよね?」
「本来は能力の高い者が最前線に立つべきだからな。俺は自分が一番だと思ったから、とにかく自己アピールできることはなんでもやったよ」
「さすがです。(笑)」
「しかし、本来は『野に遺賢なし』といってな。ああいう人材を上の人間がちゃんと評価して、登用してやる必要がある。俺とかお前のように人間的に出来ていない奴は放っておいても、出てくるが、人間的に出来ている奴に限って、前に立とうとしないからな」
「多田先生と同列に並べて頂いて恐縮です。でも、中村教授ならその辺はしっかり観られているのではないでしょうか?」
「実は、番場は出身がJ大だからな。生え抜きかどうかというのも微妙に影響するのが、日本の医局制度の問題だろう」
「なるほど」
「そこまで思うなら、お前がもっとサポートしてやってくれよ。あいつをイベントの演者にするとかな」
「なるほど! いくつかメーカーさんと相談してみます」
「必要なら俺も力を貸すぞ。一緒に演者をやってもいいし、司会をやってもいいぞ」
「本当ですか? 多田先生はそういうイベント嫌いで有名なので、どこのメーカーさんも多田先生に声を掛けづらいそうですよ」
「俺はひとつのメーカーの色がつくのが嫌なんだ。だから、学会やペーパーで勝負するのが俺のポリシーなんだよ」
「その多田先生が、番場先生のためなら、イベントに出ても良いということですね?」
「気が変わる前に動いた方がいいぞ!」
「はい、すぐにO社とF社に相談してみます!!」
ひとりごと
優秀な人が必ずしも評価されないということは、いつの時代にも、どこの世界にもあることです。
そういう人が身近にいるなら、全力でサポートするのも、ひとつの生き方かも知れません。