今日のことば
【原文】
妄念起る時、宜しく忠の字を以て之に克つべし。争心起る時、宜しく恕の字を以て之に克つべし。〔『言志耋録』第188条〕
【意訳】
煩悩によって迷いが生じたときには、忠の字を思い出して、自分自身に打ち克つべきである。人と争う気持ちが生じたときは、恕の字を思い出して、その気もちに打ち克たねばならない。
【一日一斎物語的解釈】
迷いが生じたときこそ、目の前のやるべき事に全力を傾けるべき(忠)である。また、他人と争う気持ちが生じたときは、自分の心と同じように相手の心に接すること(恕)を意識すべきだ。
今日のストーリー
営業2課の石崎君と梅田君が居室で取っ組み合いの喧嘩をしているようです。
「お前ら! ここは、子供の遊び場じゃねぇんだぞ!!」
神坂課長が仲裁に入ったようです。
「だって、こいつ後輩の癖に生意気なんですよ!」
「石崎さんこそ、俺が真面目に質問しているのに、全然真剣に聞いてくれなかったじゃないですか!」
「俺だって忙しいときには、少しくらい機嫌が悪くなることだってあるんだよ!!」
「でも、『うるせぇな』っていう言葉は酷すぎませんか!」
「なるほどな。ということは、お前たちは互いに相手が100%悪いと思ってるんだな?」
「100%と言われると・・・」
「なんだよ、梅田。一気にトーンダウンか? 石崎はどうなんだよ?」
「私も梅ちゃんが100%悪いとまでは思っていません」
「じゃあ、何%だよ?」
「何%とか言われても、数字で言うのは難しいですよ!」
「よしわかった。とりあえず、喫茶コーナーに行こう」
神坂課長は二人に缶コーヒーを手渡して、話し始めたようです。
「まず、お互いに相手の立場だったら、同じ行動をとったかどうか考えてみろよ。石崎は、もし自分が先輩に質問をしたときに冷たくされたらどう思う?」
「それはムカつきます」
「梅田は、もし自分が忙しい時に、後輩からしつこく質問されたらどう思う?」
「それは・・・、後にして欲しいなって思います」
「石崎がどれくらい忙しかったからは知らないが、普段ならそういう態度は取らないんじゃないか?」
「は、はい。いつもは優しく教えてくれます」
「石崎、梅田はいつもしつこく質問してくるか?」
「いえ、そんなことはないです。神坂課長みたいに、しつこくはないです」
「なんだとこのガキ!」
「ははは」
2人はようやく笑顔になったようです。
「イラっとしたときは、まず相手の状況をよく観察して、相手の立場になって考えてみるんだな。自分ならどうして欲しいかをよく考えろってことだ」
「・・・」
「それが思いやりってもんだ。難しい言葉を使うなら、『恕』というやつだ」
「石崎さん、すみませんでした。忙しいとわかっていながらしつこく聞いてしまって」
「いや、梅ちゃん。こっちこそゴメンね。どうしても今日中に調べておきたかったんだよな。それなのに冷たくしてしまって・・・」
「ここは、青春ドラマみたいでクサいけど、お互いに握手でもして和解しろ」
二人は素直に握手を交わしたようです。
「課長?」
「なんだよ?」
「課長は昔、よく大累課長と殴り合いの喧嘩をしたと聞きました。そのときも、相手の気持ちを思いやったのですか?」
「梅ちゃん、そんなわけないじゃん。神坂課長と大累課長が喧嘩したら、誰も止められなかったらしいよ。だから、みんな敢て無視したんだって」
「石崎、それ、誰から聞いたんだよ?」
「清水さんです」
「あの野郎、余計なこと話しやがって!!」
ひとりごと
喧嘩をしている時というのは、「相手が悪い。だから、相手が変わるべきだ。自分は悪くないんだから、変わる必要はない」と考えがちです。
ところが、矢印を自分に向けて、自分にも良くない点があったことに気づき、自分からその点を詫びると、相手も必ず自分の非を認めてくれるものです。
他人を変えたかったら、まず自分が変われということでしょうか?
そのとき、恕という考え方が非常に重要になってくるのでしょうね。