今日のことば

【原文】
人事を経歴するは、即ち是れ活書を読むなり。故に没字の老農も亦或いは自得の処有り。「先民言う有り、蒭蕘(すうじょう)に詢(はか)れ、と」、と。読書人之を軽蔑することを休(や)めよ。〔『言志耋録』第189条〕

【意訳】
人生において様々な経験を積むことは、活きた書物を読むようなものである。したがって文字が読めない老いた農夫も、もしかするとそれなりに道を体得しているかも知れない。『詩経』大雅に「先民言う有り、蒭蕘に詢れ(昔の賢人は、草刈りやきこりのような者にも意見を聞けといっている)」、とある。読書をする知識人は体験を軽視してはならない

【一日一斎物語的解釈】
書物から学ぶことも大事であるが、経験から学ぶことも忘れてはならない。


今日のストーリー

営業部特販課の大累課長が、雑賀さんと同行しているようです。

「雑賀は相変わらず本を読んでいるんだな。車の中にも本が散乱しているもんな」

「散乱って、人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。いつでも本が手に取れるように、いろいろな場所に置いてあるんですよ!」

「物は言いようだな。しかし、助手席の下に本を置いておく必要があるか?」

「げっ。それは・・・」

「最近は神坂さんも新美もかなり本を読んでいるし、置いてかれそうだな」

「本を読まない営業マンは淘汰されますよ。先人の智慧というのは、やっぱり真理が多く含まれていますからねぇ」

「じゃあ、俺は淘汰される営業マンってことか?」

「間違いないです!」

「うるせぇよ!!」

「その辺に落ちている本で良ければ貸してあげますよ」

「なんで、そんなに上から目線なんだよ。それに今、『落ちている』って言ったよな?」

「え、言いましたっけ?」

「なぁ、雑賀。もちろん読書は大事だと思う。しかし、実践から得た知識というのも馬鹿にしてはいけないぞ」

「そうですか?」

「俺がもう20年近く学んでいる合気道の師匠は、今年82歳で、すでに50年以上合気道と向き合ってきた人なんだ。その人が言うには、ひとつの道を究めれば、天地の声が聞こえるようになるらしいぞ」

「本当かなぁ?」

「そうやって、道を究めた人を疑うようでは、読書量が足りてないんじゃないか?」

「本を読まない課長に言われたくないですよ!」

「そういえば、佐藤部長も言ってたぞ。昔の賢者というのは、木こりや漁師のような低い身分の人からも話を聞いて学んでいたってな」

「・・・」

「お前は俺を本を読まないからってバカにするけど、営業の経験から得た人を見る眼や相手のモチベーションを上げる話術なんかは、それなりに真理に即していると思うんだけどなぁ」

「たしかにそうですね。昔のことばに、『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』っていうのがあるんですけど、本当に立派な人は経験からも歴史からも学ばないとダメかも知れませんね」

「そうだな。よし、俺はしっかり読書をしよう! お前は、経験を積んだ人のことばからも学ぶといい。そうすれば、俺たち二人とも賢者の末席に仲間入りできるかもな」

「いいですね!!」

「ところで、雑賀」

「なんですか?」

「このダッシュボードの奥にあるのは・・・」

「あ、それは!!」

「今どき懐かしいベタなエロ本じゃないのか?」

「・・・」


ひとりごと

本を読む人は、時に本を読まない人を軽蔑します。

しかし、二宮尊徳翁が「書かざる経を読む」と言っているように、文字にならない教えも大切です。

人はそれを経験と呼ぶのかも知れません。

読書と実践による経験、この2つがなければ、真の成長はないということでしょう。


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