今日のことば

【原文】
天道は都(すべ)て是れ吉凶悔吝(かいりん)にして易なり。人情は都て是れ国風雅頌(がじゅ)にして詩なり。政事は都て是れ訓誥誓命(くんこうせいめい)にして書なり。交際は都て是れ恭敬辞譲にして礼なり。人心は都て是れ感動和楽にして楽なり。賞罰は都て是れ抑揚褒貶にして春秋なり。即ち知る、人道は六経(りくけい)に於いて之を尽くすを。〔『言志耋録』第220条〕

【意訳】
天地自然の道とは、すべて吉と凶、悔いと恨みとが移り変わるものだと『易経』に記述されている。人情については、国風・大雅・小雅・頌といった『詩経』の各篇の中に見事に記述されている。政治については、伊訓・湯誥・甘誓・顧命といった『書経』の各篇の中で語りつくされている。人との交際については、慎み敬うことや人に譲ることの美徳が『礼記』の中に記載されている。人の心については、いかに感動するか、和やかに楽しむかということが『楽記』の中に記載されている。賞罰については、取り上げたり退けたり、褒めたり貶めたりすることが『春秋』の中に詳しく記述されている。つまり人の道というのは、これら六経(りっけい)の中にすべて書き尽くされているのだ

【一日一斎物語的解釈】
人間が生きるために必要な知識は、すべて古典の中に書き尽くされている。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚の西郷さんが主査する読書会に参加して、その帰り道に同じ会に参加した本庄さんと食事をしているようです。

「実はこの夏に、今まで経営してきた事業を精算して、新しい仕事を始めたんですよ」

「え、失礼ですけど、本庄さんはおいくつですか?」

「51歳です」

「すごいなぁ、50を越えて新しいビジネスをやるなんて!」

「昨年くらいからずっと悩んできましてね。このまま惰性で続けてよいのかどうかと」

「なるほど」

「そうしたら、コロナが出たでしょ。逆にあれで思い切ることが出来たのかも知れません」

「大変でしたねぇ」

「でも、西郷さんの読書会で『論語』を学ぶことができ、それ以外にもいくつかの古典を紹介してもらったことで、なんとか乗り切ることができました」

「へぇー、じゃあ、サイさんは本庄さんの恩人なんですね?」

「まったくそのとおりです。西郷さんに出会っていなかったら、まだ決めきれずに会社を続けていたかも知れません」

「やはり、古典には人を動かす力があるんですね」

「おそらく人間が生きるために必要な知識は、すべて書かれていると思って間違いないでしょう。先人の智慧は偉大ですよ」

「そうかぁ、私もサイさんとのご縁を大事にして、もっと古典を勉強してみます!」

「神坂さんの吸収力は凄いなと思っていますよ」

「本当ですか?」

「『論語』の内容を、すぐに自分の周囲の出来事に置き換えて考えられているのは素晴らしいなと思って、いつも感心しているんです」

「うれしいです。私も本庄さんのコメントはいつも深くて、他の哲学者や教育者のお話もされるので、なんて凄い人なんだろうと思っていました」

「恐縮です」

「やっぱり、学んだことを実生活や仕事に活かしてナンボですよね」

「そうです。私たちは学者になる訳ではありませんからね」

「今日は、いろいろとお話が聞けて勉強になりました。私も来年は皆勤を目指して、読書会に参加しますので、よろしくお願いします」

「こちらこそ、来年もよろしくお願いします」

「はい。では、そろそろ帰りましょう。どうぞ、良いお年をお迎えください」

「良いお年を!」


ひとりごと

小生も『論語』を中心に儒学や中国古典を約7年ほど学んできました。

たしかに、一斎先生の言うとおり、古典には人間が生きるために必要なすべての知識が書かれていると言っても過言ではないでしょう。

小生自身も古典に救われた人間です。

古典への感謝の気持ちを、読書会という形で別の方にご恩送りができたら、これほどうれしいことはありません。


『書経』