今日のことば
【原文】
人は百歳なる能わず。只だ当に志、不朽に在るべし。志、不朽に在れば、則ち業も不朽なり。業、不朽に在れば、則ち名も不朽なり。名、不朽なれば、則ち世世子孫も亦不朽なり。〔『言志耋録』第228条〕
【意訳】
人は百歳までは生きられない。ただ、志だけは朽ちることのないようにすべきである。志が朽ちることがなければ、自分が為した仕事も不朽のものとなる。仕事が不朽であれば、その名も朽ちることはない。名が不朽であれば、子子孫孫までも永久に不朽である。
【一日一斎物語的解釈】
常に志を持ち続ければ、仕事の成果も自分一代で朽ちることなく、末長く語り継がれるであろう。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、佐藤部長と共に、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生を訪れたようです。
「長谷川先生、本年もよろしくお願い致します」
「やぁ、佐藤さん、神坂君。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
「今年はCOVID-19との戦いに終止符を打ちたいですね」
「私たちの専門領域外ではあるけれど、世界の医療人は皆優秀だから、きっと戦いに勝利するはずだよ」
「今のところ、全国的にも内視鏡検査の数は元に戻っているようです」
「うん。当院もほぼ昨年並みの症例数に戻っているよ。ウチの医師たちには『何があっても前を向いて、心と技を磨きなさい』と伝えているんだ」
「先生は今でも大腸内視鏡検査をされているんですよね?」
「週に一回だけね。それも、昔からの患者さんが中心だよ」
「凄いです! そこまで現役でいられる先生の活力の源は何ですか?」
「あらためて聞かれると何だろうねぇ。『もっと早く、もっと楽に大腸癌を退治したい』、その一心かなぁ」
「まさにそれが先生の志なんですねぇ」
「志か、そうだね。人生100年時代と言われてはいるけど、私の世代はそこまでは生きられないだろう。となると、あとどれだけ医療にたずさわれるかわからないからね。その志だけは持ち続けたいね」
「佐藤一斎先生がこう言っていますね。『人は100歳までは生きられないだろう。しかし、志を持ち続ければ、仕事は不朽となり、その名も不朽となり、子々孫々までも不朽となる』と。先生のお名前は、日本の医療界に永遠に刻まれていかれると思います」
「ははは。恐縮です。名前を残したいと思って仕事はしていないけど、結果的にそうなるなら、一所懸命にやってきたことが報われる気がするね」
「そうかぁ、一斎先生の頃は、100歳まで生きるというのは難しいことだったんですね」
「うん、一斎先生も、数え88歳で亡くなっている。当時としては長寿ではあるけどね」
「今では日本だけで100歳以上の人が、6万人もいると聞いています。これも医療の進歩の証ですね」
「そんな今の日本の医療で大きな課題となっているのが、大腸癌で亡くなる患者さんをいかに減らすかということ。今や年間5万5千人くらいの方が大腸がんで亡くなっているからね」
「先ほど先生が言われたように、大腸がんは早期発見で完治する病気ですもんね」
「そうなんだよ。そして、早期で見つけることは難しくない病気でもある。欧米ではすでに大腸がんで亡くなる人の数は減り始めているのに、日本ではまだ横ばいか上昇傾向にあるんだ」
「やはり長谷川先生は、大腸がんの治療のお話をしているときには目が輝いていますよね」
「ははは。どうしても熱くなるなぁ」
「私も医療業界人の端くれですから、長谷川先生のような高い志をもった先生をしっかりご支援させて頂くことを私自身の志にして精進します!」
「うん、お互いに世の中のお役に立てるように努力し続けようね」
ひとりごと
世に名を残したいなら、高い志を持て、というメッセージを読み取ることができる章句です。
しかし、それでは名を残すことが目的になってしまいます。
この言葉の真意は、ただひたすら世の中の為に貢献するような高い志を持ち続けよ、ということでしょう。
名前や子孫繁栄は、あくまでもその結果に過ぎないということでしょう。

