今日のことば
【原文】
真を写して後に遺すは、我が外貌を伝うるなり。或いは似ざること有り。儘醜なるも儘美なるも、亦烏(いずく)んぞ害あらん。書を著わして後に貽(のこ)し、我が中心を伝うるなり。或いは当たらざること有れば、自ら誤り人を誤る。慎まざる可けんや。〔『言志耋録』第230条〕
【意訳】
写真を残すことは、自分の容姿を伝えることが目的である。ときには実際の姿と似ていないこともあるだろう。それが醜かろうが美しかろうが、それほど害を与えるものではない。本を著して後世に残す行為は、自分の思想を伝えることである。もし不当な箇所があれば、自分だけでなく読者にも誤りを与えることになる。慎まなければならない。
【一日一斎物語的解釈】
自分の写真の写りが良かろうが悪かろうが、誰にも迷惑を掛けないが、文章として残したものは、時に人に誤解を与える恐れがあるので注意が必要である。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、N大学医学部附属病院の倉庫脇にある休憩室でY社の菊池さんと雑談をしているようです。
「神坂さん、知ってます。M社の林原さんがパワハラで左遷されたらしいですよ」
「あー、あのパンチパーマの人か。見るからにパワハラをやりそうじゃないか。鉄拳でもお見舞いしたのかな?」
「それが、メールの内容がマズかったようです」
「メールの内容だけでパワハラになるの?」
「そりゃそうですよ。かなり明確な証拠になるじゃないですか?」
「そう言われればそうかもな。で、どんな内容なのかは知ってるの?」
「任せてください。バッチリつかんでます。『お前みたいなごみ屑野郎は、自分から会社を去れ』とか、『お前は当社の癌だ。癌は取り除かないと手遅れになる』とか、そんな言葉らしいです」
「たしかにアウトだろうな。クビではないの?」
「労基に訴えられたわけではないので、部署異動でお茶を濁した感じらしいですよ」
「そうか。本を書いたり、SNSに投稿ことだけでなく、メールの内容にも気を付けないと、誤解を生むんだろうな」
「そうですね。林原さんの場合も、言葉は辛辣ですけど、本人は本気でそう思っていたわけではないと言っているそうです」
「そうだろうな。しかし、言葉なら口が滑ったでごまかせても、メールとなるとしっかり記録に残ってしまうからな。そういうつもりはないと言ってもダメだろうね」
「はい。あの人の場合、相手も複数いたらしいので」
「それはダメだなぁ」
「神坂さんも気を付けた方がいいですよ」
「俺? 俺は大丈夫だよ。部下とは信頼関係があるからさ」
「林原さんもそう言ってたそうですよ」
「ちょっと、俺を一緒にしないでよ」
「そうですかねぇ・・・」
「な、なんだよ。なにか情報でも持ってるのかい?」
「石崎君が言ってましたよ。あの人もそのうちにそうなるかも知れないって」
「あのガキめ! 帰ったら、とっちめてやる!!」
「それがパワハラじゃないですか!」
「大丈夫、大丈夫。俺は文章には残さないから」
「・・・」
ひとりごと
今回のストーリーは、一斎先生の章句をかなり拡大解釈しております。
一斎先生は、あくまでも本を書く際の注意点を述べていますが、我々が日々の仕事のなかで一番文章という形をとって表現するのは、メールではないでしょうか?
メールは手紙と違い、簡便でスピーディに意思を伝えることができて便利である反面、一度送ってしまえば取り返しがつきません。
しっかりと自分の伝えたいことが伝わる文章となっているかを、最後にもう一度確認してから送信しましょうね。

