今日のことば
【原文】
「騎戦の時、槍を揮(ふる)い刀を運(めぐ)らすには、宜しく力、後足に在るべし。槍を突かんと欲し、刀は撃たんと欲して、力前足に在らば、則ち必ず顛墜(てんつい)を致さん。警む可し」と。先輩の相伝うること是(かく)の如し。〔『言志耋録』第237条〕
【意訳】
「騎兵戦の際に、槍を突き刀を振り回すためには、必ず後ろ足体重にしておく必要がある。槍を突こうとし、刀を振りかざそうとした際に、力が前体重になっていては、必ず馬から転落してしまうだろう。戒めるべきである」という。先人の伝えていることはこういうことであろう。
【一日一斎物語的解釈】
戦闘において、あまり前のめりになれば、バランスを崩して危険である。同様に、何事も前のめりで進めると、大きな失敗を招く可能性が高い。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、次男の楽君のテニスの試合を観戦しているようです。
最初のセットは取ったものの、小さなミスから流れに乗れずに2セット目を失った楽君は、やや焦りの表情を見せているようです。
「楽、落ち着け!」
思わず神坂課長も声を掛けています。
「先生、何をやってもうまく行かない。どうすればいいんですか?」
「楽、勝ちたいという意識が前に出過ぎているぞ。そのせいで、身体が前重心になり過ぎている」
「え? 全然気づきませんでした」
「身体が前のめりになると、逆方向への反応も遅れがちになる。まずは深呼吸をして、力を抜け。そして身体のバランスに気をつけろ!」
「はい!」
3セット目は、落ち着きを取り戻した楽君の一方的な展開となり、セットカウント2対1で勝利を収めました。
その帰り道、
「途中はどうなることかと思ったぞ。突然、バランスを崩して、足が全然出ていなかったもんなぁ」
「あぁ、やっぱりそうだったの? 先生からも、前体重になり過ぎていると指摘されたんだ」
「なるほどな」
「それで、深呼吸をしてから、身体のバランスを気をつけながら戦ったら、調子が戻ってきた」
「さすがは、先生だな。ちゃんと見ているな」
「うん」
「しかし、その話は重要だなぁ。何でもそうだけど、前へ前へという意識が強くなり過ぎるとバランスを欠くんだよ。仕事も同じだ」
「仕事も?」
「そう。父さんのような営業マンは、売り上げが欲しいという思いが強くなり過ぎると、強引に売り込みをかけてしまって、かえってお客様の心が離れてしまうことがあるんだよ」
「へぇー、テニスも仕事も同じなのか」
「そうだ。どんなことからも学ぶことはできるんだよ。しかし、まずは勝てて良かったな。帰ったら予定どおり家族4人で焼肉パーティだな」
「やったぁ! 負けたら焼肉が食べられないと思って、めっちゃ焦ったんだよね」
「お前、勝ちたい気持ちより、焼肉を食いたい気持ちで前のめりになってたのか・・・」
ひとりごと
心のバランスが崩れると、身体のバランスが崩れます。
多くのスポーツでメンタル・トレーナーが必要とされるのも、そのためでしょう。
しかし、営業も同じです。
前のめりになって商談に臨むとロクな事はありません。
気をつけましょう。

