今日のことば
【原文】
真勇は怯の如く、真智は愚の如く、真才は鈍の如く、真巧は拙の如し。〔『言志耋録』第238条〕
【意訳】
真の勇者は一見すると臆病者のようであり、真の智者は一見すると愚者のようであり、真の才能ある人は一見すると不才者のようであり、真の巧者は一見すると下手くそのようである。
【一日一斎物語的解釈】
ホンモノは、一見すると平凡に見えるものだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、営業2課の梅田君と同行しているようです。
梅田君がハンドルを握り、助手席に神坂課長が座っています。
「お、お前、クラプトンを聞くのか?」
「はい。私は洋楽が好きで、特にブルースにハマっています」
「いいねぇ、話が合いそうだな。ところで、クラプトンって、『スローハンド』って呼ばれているのを知ってるか?」
「あぁ、そのタイトルのアルバムがありますね。でも、意味は知りません」
「直訳すれば、『遅い手』。つまり、あまりにも手の動きがなめらかなので、一見するとゆっくり手が動いているように見えるところから、そう言われているんだ」
「へぇー、カッコいいですね」
「ホンモノというのは、かえって派手さがないのかも知れないな」
「え?」
「プロ野球選手でも、本当に守備が上手い選手にはファインプレーがないんだ」
「なぜですか?」
「あらかじめ打球を予測して、守備位置を変えているから、打者がヒットだと思った打球を難なく補給してしまうんだよ」
「あー、そういうことですか」
「営業マンだって同じだぞ」
「えっ、そうなんですか?」
「本当にすごい営業マンって、忙しく動き回らないんだよ。つねに紹介で商売が回ってくるから、自分から売り込む必要がないんだな」
「そんな営業マンになりたいですねぇ」
「その話は、保険とか家のセールスの話だからな。なかなか、我々の業界でそういう立ち位置に行ける人は少ないだろうけど、目指すべき姿ではあるよな」
「はい。課長はそのレベルではないのですか?」
「紹介を頂くケースもあるけど、やはりこちらから商談を仕掛けるパターンの方が多いなぁ」
「どうせ営業の世界で生きていくなら、ホンモノになりたいです」
「派手な活躍は望まないのか?」
「今日の話を聞いて、考えが変わりました。派手さは捨てて、玄人が見たらホンモノだとわかる営業マンになります!!」
「楽しみだな。全力でサポートするよ!」
ひとりごと
本当にその道に精通している人は、かえって何も知らないかのように見えるのかも知れません。
かつて孔子は、廟堂で祭式を執り行う際に、周囲の人に一々聞いて回ったそうです。
それを見たある人が、「あの男は例の大家だと聞いていたが、とんだまやかしだったな。一つ一つ聞いて回っているじゃないか。彼は何も知らないんだよ」と言ったそうです。
それを聞いた孔子は、「それこそが礼なのだ」と答えたと言います。
これぞホンモノと言えるエピソードですね。

