今日のことば

【原文】
歴代の帝王、唐・虞を除く外、真の禅譲無し。商・周以下、秦・漢より今に至るまで、凡そ二十二史、皆武を以て国を開き、文を以て之を治む。因って知る、武は猶お質のごとく、文は則ち其の毛彩にして、虎豹(こひょう)犬羊の分るる所以なることを。今の文士、其れ武事を忘る可けんや。〔『言志耋録』第241条〕

【意訳】
中国歴代の皇帝は、堯と舜を除いては、禅譲つまり有徳者に帝位を譲ることはしていない。殷(商)・周から後、秦・漢から現在に至るまで、およそ二十二の王朝の変遷があるが、すべて武力で国を開き、文をもって国を治めてきた。そこでわかることは、武力というものは身体そのもののようなものであり、文とは毛皮の模様のようなもので、身体と毛皮の模様という二つから虎・豹・犬・羊といった動物の違いがわかるのである。現代の学者は、武の鍛錬を疎かにしてはいけない

【一日一斎物語的解釈】
中国の歴史を繙くと、伝説上の黄帝である堯から舜、舜から禹へと帝位が禅譲されたとされる。しかし、それ以降は帝位は世襲制となり、その結果、幾多の武力による易姓革命が繰り返されている。馬上で天下を取っても、馬上で政治が出来ないように、机上で政治はできても、机上で天下を取ることはできない。つまり、文武両道を極めねばならないのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚の西郷さんとzoomでの勉強会を終えた後に雑談をしているようです。

「それにしても、中国大陸の歴史というのは殺戮の歴史なんですね」

「かつては堯から舜へ、舜から禹へと帝位が禅譲されたとされるけど、それはいわば神話の世界だからね。それが理想ではあるけれど、その後は常に帝位は世襲され、武力革命が繰り返されているよね」

「そこに行くと、日本は凄いですよね。武家政治は存亡を繰り返してはいますが、天皇はずっと万世一系ですから」

「そこは世界に誇って良いことだと思うよ」

「しかし、武力を持たないことが本当に素晴らしいことなのでしょうか?」

「そこは難しい問題だよね。武力なしに国を保てるのであれば、それは理想だけれど、今はアメリカの傘の下に守られているという点では脆弱ではあるよね」

「もし、アメリカが日本を守るのを止めた、となったら大変です」

「うん。かつて日本の皇族は闘いというものを極端に嫌った。その結果、身辺擁護のための組織が必要となり武士が誕生した。しかし、それによって朝廷は700年以上にわたって政権の座を武士に奪われ続けたわけだ」

「あぁ、なるほど」

「やはり国という体裁を保つためには、文武の両方が必要だということなんだろうね」

「ただ、総論はOKでも、たとえば自分の子供たちが徴兵制度で軍隊に行き、海外の紛争の場に派遣されることを想像すると、簡単には軍隊を持つことに賛成はできません」

「この状況に慣れてしまっているからね。簡単なことではないだろう。しかし、単純に憲法9条を守るというきれいごとを言うだけでは済むのかどうか」

「はい。中国もロシアもだんだん不穏な情勢になってきていますしね。北朝鮮も含めて、日本のすぐそばにある国々ですよね」

「政治家の皆さんには、将来の日本のために、この議論を避けずに真剣に討議して欲しいよね」

「かつての狂歌に、 世の中にか(蚊)ほどうるさきものはなし ブンブ(文武)というて夜も寝られず』というのがあったそうですね。しかし、ブンブをうるさいと言っていたら、いつか手痛いしっぺ返しを喰らうかも知れません」

「うん。なんだか真面目な話になったねぇ」

「あ、ほんとうですね。では、そろそろ終了しましょうか?」

「そうだね。神坂君、今日も参加してくれてありがとう!」

「いえ、こちらこそ、緊急事態宣言が出て外出せずに家にいる身としては、この勉強会はありがたかったです」

「では、失礼します」

「はい。お疲れ様でした!」


ひとりごと

文武両道の話から、憲法9条の話に発展しました。

これはとても難しい問題ですね。

誰しも、このままでは危険だとは感じている。

しかし、総論賛成でも、各論となると、いろいろな利害関係が渦巻きます。

中国、ロシアの動きを見ていると、あまり猶予はないようにも思えるのですが・・・。


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