今日のことば

【原文】
凡そ物に軽重有り、虚実有り、以て変化を成す。皆、既未済の象なり。聖人既に此の象を立てて以て人に示す。而も人未だ其の玅(みょう)を識らず。須らく善く翫索(がんさく)して之を得べし。〔『言志耋録』第243条〕

意訳
すべて物事には軽重や虚実があり、変化を成していく。これは皆『易経』にある既済(きさい:尽く成る)と未済(みさい:事未だ成らず)という卦の象にある。聖人と呼ばれる人は既にこの象を人々に示している。しかし人々はその妙を理解していない。よくよく考察してこれを会得すべきである

一日一斎物語的解釈
何事も完成形を理想としつつ、実際には常にそこに至っていない未完成な状態であることを認識すべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長と同行の車中のようです。

「最近、古典を読むようになって、自分の至らなさに気づきまくりで、ちょっと落ち込んでいるんです」

「神坂君、それで良いんだよ」

「え?」

「人間は、自分が完成しているとか、完全無欠だなどと思わない方がいい。その瞬間に成長は止まるし、未完成の人を馬鹿にするようになりがちだからね」

「あ、たしかにそうですね。自分が出来ていることが出来ていない人をみると、ちょっと見下したくなることがあります」

「そう。そして、そういう驕りが大きな失敗を呼ぶんだよ」

「そうなると古典との付き合い方というのは、どういう風にするのが良いのでしょうか?」

「『論語』や『言志四録』に書かれていることは、平凡な我々にはできていないことばかりだ。でも、それを読めば自分が出来ていないことに気づける。そして、自分が完璧でないことにも気づいて、もっと努力する必要性を感じる。そこまでで良いんじゃないかな」

「できていなくて当然だということですか?」

「極端な言い方をすればそうだね。ただ、それで開き直ってはいけない。さらに自分を高める努力をするなら、そう思っても良いということだね」

「そうか、あくまで古典に書かれていることは理想なんですね。でも、理想を知ることができるから、今の自分の不足に気づけると」

「そういうこと。西郷隆盛公は、過ちに気づければそれで良い。あとはいつまでもくよくよせずに、すぐに改善に向けて一歩を踏み出せ、と言ってるよ」

「過ちに気づくだけでも良いのか!」

「人間は過ちから多くを学べる生き物だからね」

「たしかに多くの痛い目に遭ったことで、少しずつ成長してきたのかも知れません」

「易の世界では、完全な姿というのは決して理想ではないんだ。満ちた月はその後必ず欠けるように、完全の後は乱れが生じるとみるんだね」

「完成しない方がいいということですか?」

「うん、常に完成を目指しつつ不完全である方が大きな過ちを起こさないのかも知れないね」

「なるほど、深いなぁ。と話をしているうちに到着しました。久しぶりに中村教授と面会ですね!」

「また、大切な教えをいただけるんじゃないかな。楽しみだね!」


ひとりごと

『易経』の龍の話は有名です。

龍は天に上り飛龍となると、あと亢龍(下り龍)となって後悔するとしています。

小生が主査する読書会でも、よく参加者の方にお話をするのですが、古典に書かれていることは理想であり、出来ていないことで自分を責めるために読むべきではないとお伝えしています。

大事なのは、自分が出来ていないことに気づくことです。

気づきさえすれば、改善に向けて一歩を踏み出せるはずですからね!


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