今日のことば
【原文】
智仁勇は人皆謂う、「大徳にして企て難し」と。然れども凡そ邑宰たる者は、固より親民の職たり。其の奸慝(かんとく)を察し、孤寡を矜(あわれ)み、強梗(きょうこう)を折(くじ)く。即ち是れ三徳の実事なり。宜しく能く実迹(じっせき)に就きて以て之を試むべし。可なり。〔『言志耋録』第267条〕
【意訳】
智・仁・勇について人は、「大きな徳であるから、実行するのは難しい」と言う。しかし、ひとつの組織を統治する者は、本来、民(組織のメンバー)に親しむことが仕事である。邪悪なものを見極め、孤児や寡婦に情けをかけ、力ずくで反抗する者を倒す。これらがすなわち三徳の実際の事柄である。よく実際の活動においてこれら三徳を試すべきであり、それで良いのである。
【一日一斎物語的解釈】
儒教の三徳とされる智・仁・勇は、そう簡単に身につくものではない。しかし、人の上に立つ者は、メンバーが働きやすい環境を作ることにつとめれば、それがすなわち智・仁・勇を発揮する訓練となるのだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、大累課長、新美課長と会議後に喫茶コーナーで雑談中のようです。
神坂「儒学の教えでは、人の上に立つ者は、智・仁・勇の三つの徳を具えなければならないんだそうだ。俺の場合、勇気は問題ないが、あとの2つはなかなか難しいよなぁ」
大累「神坂さんの勇気は、無謀な勇気ですよね?」
新美「いわゆる匹夫の勇じゃないですか?」
神「やかましいわ、お前ら! 俺の捨て身の勇気のお陰で助けられたことも随分あったはずだぞ!」
大「そうでしたっけ、記憶にございません」
神「新美!」
新「あ、そんなこともあったかなぁ・・・」
神「ちっ、受けた恩を忘れるような奴はロクな死に方をしないぞ」
新「さっきの話ですけど、たしかに智とか仁とかというのは、あいまいで難しいもののようにも感じますけど、あんまり大きく考えなくても良いのではないですか?」
神「どういうことだよ?」
新「製品知識、医学知識、販売技術などをしっかりと学ぶことで、基本的な智は身についていきますよね。そのうえで、我々のように課長になったら、メンバーのためにそういう智識を生かせれば、それで良いのかなぁと思うんですよ」
神「たしかに、そうかもな」
大「そういう意味では、仁なんてもっと難しいけど、メンバーのプライベートの相談にも親身になって乗ってあげたりしていれば、それで良いのかもな」
新「はい」
神「なるほどな。肩肘張って、『智・仁・勇を身につけています』なんて態度ではダメってことだな。日々の仕事の中で、メンバーの働きやすい環境をつくること、お客様の課題を解決するお手伝いをすることを常に意識していれば、実は智・仁・勇を発揮する訓練になっているのかもしれないな」
大「それが難しいんですけどね。雑賀は毎回、家庭内のトラブルの話を持ち掛けてくるので、ちょっとうんざりしちゃうんですよ」
神「それこそお前の仁が試されているんだよ!」
大「そうですねぇ。あ、そうだ! 今日は、可愛い後輩の懐事情を察して、神坂さんの奢りということでお願いします」
新「ありがとうございます! 神坂さんの仁が試されますね!」
神「お前らなぁ・・・」
ひとりごと
智・仁・勇は儒教の三徳と呼ばれる大切な徳目です。
天皇家が所有する三種の神器も、鏡が智を、剣が勇を、玉が仁を意味するとされます。
つまり、この3つの徳目を身につけてこそ、天皇として君臨できるということなのでしょう。
そう考えるとたしかに大層な徳目だと思ってしまいますが、その端緒は孟子も言うように身近なところにあるものです。
日々の生活や仕事の中で、利他の気持ちで行動れば、自然と智・仁・勇が磨かれていくのかも知れません。