今日のことば
【原文】
訴を聴くの道は、仁以て体と為し、荘以て之に涖(のぞ)み、智以て之を察す。先ず其の言を聞きて情偽を攷(かんが)え、次に顔色を観て真贋を弁じ、或いは寛、或いは厳、以て之を抑揚し、然る後、義以て之を断じ、勇以て之を行なう。大抵是(かく)の如きのみ。〔『言志耋録』第268条〕
【意訳】
訴訟を裁く道とは、仁の心を根幹とし、荘厳な態度で臨み、智力を発揮してよく調べ上げることにある。まず言葉を聞いて真情や虚偽を考察し、次に顔色を観て真実か嘘かを弁え、ある時は寛大に、あるときは厳しく褒めたり叱責して、その後で道理に沿って判断し、勇気をもって採決を下すのである。大体このようなやり方になるだろう。
【一日一斎物語的解釈】
部下からの訴えに対して判断を下す際には、言葉と表情から真偽を読み取り、必要に応じて寛大に処したり、厳しく接する必要がある。部下に嫌われたくないといった感情を棄て、お互いの成長にとって必要と思われる処置を勇気を持って断行すべきである。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、営業2課の善久君と同行中のようです。
「課長はなぜ、今朝の梅田の話が嘘だとわかったのですか?」
「言葉遣いと表情をしっかり見聞きすれば、お前たち若造の嘘なんて簡単に見抜けるよ」
「表情は分かる気がしますが、言葉からも分かりますか?」
「嘘をつくときというのは、平常心ではいられないから、言葉にも癖が出るんだよ」
「そういうものですか?」
「梅田の場合は、『あの~』という音がやたらと増えるんだ」
「そんなところまで見ているんですね」
「もちろんだよ。でも、勘違いするなよ。それはお前たちを陥れるためではないんだ。そういう嘘をつかせないようにするためだということを分かって欲しいんだよな」
「はい。だから、今日はいつも以上に梅田を厳しく叱ったんですね」
「うん。最近、立て続けに寝坊しているからな。ここでそういう悪い癖を直しておかないと、あいつは時間にルーズな人間になってしまう」
「お客様の商談に遅刻するようなことにもなりかねませんね」
「そう、それが一番怖いんだよ。ただな」
「なんですか?」
「もしかしたら、前の日に早く寝れない理由があるのかも知れないということは心配しているんだ。直接聞く限りは、何もないと言うんだ。それなら徹底して矯正しないといけない。でも、もしなにか事情があるなら、それを汲んでやりたい」
「私の知る限りでは、そういう特別な事情はないと思いますが、あいつの同期に聞いてみますよ」
「あー、是非そうしてくれないか。助けてあげることがあるなら、手を貸してやりたいんだよ」
「課長、ありがとうございます」
「え?」
「そんな風に、梅田のことを思ってくれて、ありがたいです」
「なんで、お前がお礼を言うんだよ。(笑)」
「梅田だけでなく、私たち部下全員をそういう目で見てくれているからですよ」
「ははは。照れくさいな。俺はそういう風に言われるのは苦手だ。よし、この話は終わり。昼飯を食おう!!」
ひとりごと
人の上に立つ人は、部下が間違った方向に行かないように適宜手を打つ必要があります。
そのためには、部下の癖を知ることも重要です。
人は嘘をつくとき、言葉や表情あるいは仕草に特徴的なものが表れるものです。
日頃からそうした小さな癖を把握しておくことも、上に立つ人の大事な仕事なのではないでしょうか。

