今日のことば
【原文】
訴を聴くには、明白を要し又不明白を要す。明白を要するは難きに以て卻って易く、不明白を要するは易きに似て卻って難し。之を総ぶるに仁智兼ね至るを以て最緊要と為す。〔『言志耋録』第269条〕
【意訳】
訴え事を裁くには、はっきりさせることが重要な場合もあれば、あえてはっきりさせないことが必要な場合もある。物事をはっきりさせることは、実は難しいようで簡単であり、逆にはっきりさせないことは、容易なようで実は極めて難しい。これをまとめると、仁と智とを兼ね備えることが最も重要だということになる。
【一日一斎物語的解釈】
人の上に立つ人は、時には部下の小悪には目をつむることも必要である。すべてを白日の下に晒すことが必ずしも良いとは言えない場合もあるのだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、本田さんに相談を持ち掛けられたようです。
「本田君、どうしたの? 急に呼び出したりして」
「実は、石崎のことなんですが」
「ほぉ、石崎がどうした?」
「あいつ、昨日病院から直帰したことになっているじゃないですか」
「あー、日報にそう書いてあったな」
「でも、あいつ昨日は日報に書いてある城下病院には行ってないんです」
「え?」
「実は、あの病院の内視鏡室の看護師のひとりが私の彼女なんです」
「マジで?! それはビックリ!!」
「いや、それはどうでもいいんですけど。その彼女と昨晩電話をしていて、石崎が昨日は病院に来ていないことがわかったんです」
「あいつ、何を考えているんだ?」
「ちょっと気になって、その話を廣田にしたんです。そうしたら廣田が昨日見たらしいんです」
「何を?」
「石崎が夕方の17:00前にデパートから出て来たところを見かけたと言うんです。手には何かプレゼントみたいなものを持っていたらしいです」
「なるほどな」
「はい?」
「それでわかったよ。3日前くらいにあいつと同行したときに、そういえばこう言ってた。好きな女性にお付き合いを申し込むつもりだと」
「・・・」
「彼女に渡すプレゼントを買ったんだろう。昨日がそのデートの日だったんだよ、きっと」
「はい・・・」
「本田君、今回は見逃してあげよう。プライベートが充実していないと、仕事にも身が入らないからな。あいつは普段はサボるような奴じゃない。よっぽどプレゼントに何を買うかを迷ってたんじゃないか。(笑)」
「良いんですか?」
「たまには良いじゃないか。杓子定規に細かいことに一々お小言を言ってたら、上司と部下の信頼関係なんて築けやしないよ」
「課長は、寛大ですね」
「俺が寛大? まさか! ただ、俺だってサボったことがない訳じゃないからね。お互い様ってところかな。(笑)」
「わかりました! 廣田にも内緒にしておくように言っておきます」
「うん、そうしてくれるとありがたいな。だけどさぁ、もし本田君の彼女が城下病院の看護師さんだって知ったら、あいつ蒼ざめるだろうな」
「間違いないですね!」
「明日、それをバラしてみるか?」
「課長、それじゃ、この件を内緒にしても意味がないじゃないですか!!」
「あ、そうか。でも、ちょっと揺さ振ってみたいなぁ」
「課長って寛大なのか、意地悪なのか、さっぱりわかりません・・・」
ひとりごと
人の上に立つ人は、清濁併せ呑む器量が必要です。
小さな過ちには目をつむり、寛大な処置をとる方が部下と良好な関係を築けるものです。
完璧な人間はいないのですから、時には見てみぬフリができるかどうかも、リーダーにとって大事な要件かも知れません。