今日のことば
【原文】
訴訟には、既に其の言色に就きて以て其の心を視聴すれば、則ち我れ当に先ず平意公心を以て待つべし。急心なるは不可なり。倦心なるは不可なり。愛憎の心は尤も不可なり。〔『言志耋録』第272条〕
【意訳】
訴え事において、人の言葉と顔つきを観察しながら心を視聴するのであれば、まず自分の気持ちを平静で公平にして対処しなければならない。急ぐ気持ちがあるのはよくないことである。またいやいや対応するのもよろしくない。好き嫌いで対応するのは最もよろしくないことだ。
【一日一斎物語的解釈】
訴えごとを処理するには、冷静かつ公平に、そして愛情をもって接するべきだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、N大学医学部附属病院の倉庫脇にある休憩室でY社の菊池さんと雑談をしているようです。
「神坂さん、知ってますか。K医科さんと元社員の細沼さんの訴訟は泥沼化しているらしいですよ」
「え、まだやってたの? 細沼さんのパワハラだったんでしょ? 争っても勝ち目がないのに」
「いや、それがそうでもないようです。中途入社で好待遇をされていることをよく思っていなかった生え抜き組の陰謀説もあるんですよ」
「相変わらず、菊池君は情報通だよねぇ」
「証拠物件と言われた音声なんかも、でっち上げだと細沼さんは主張しているようです」
「もうそうなると手が付けられないな。そうなる前に社内で話をつけないとねぇ」
「社長さんは面倒なことに巻き込まれるのは御免だといって、この件はすべて副社長に丸投げしていたみたいです」
「副社長って、神田さんか?」
「はい。その神田副社長こそが黒幕だという説もあります」
「それはあり得る話だよ。社長が自らジャッジすべきだよ、そういうことは」
「ですよね」
「急いで結論を出そうとしたり、面倒くさがって丸投げしたりしたら、結局自分のところに帰って来るんだ。かといって、ありがちなのが好き嫌いで判断することだけど、これは論外だね」
「ここにきて細沼さん側がでっち上げの証拠をつかんだという話です」
「形勢逆転か。しかし、勝っても負けても会社にとっては何のメリットもないよなぁ」
「ローカルニュースでは取り上げられていますからね」
「ちゃんと両者の言い分を聴けば、大概はわかるものだと思うんだよな。顔色や言葉のトーンでだいたいの嘘は見抜けるよ」
「そうですね。また、新しい情報がわかったらお知らせしますよ」
「うん、それはありがたいけど、ちゃんと仕事もしないと菊池君自身が干されちゃうよ」
「はい、大丈夫です。あの、もうすぐわかると思うんですけど、御社が納入している消耗品の一部を弊社で奪取しましたので・・・」
「マジか! まったく、君は抜け目のない奴だ。そんなことしてると、同業から信用されなくなるぞ」
「そのために、この情報網が生きるんじゃないですか!」
「ちっ、マジで怖いよ、君が!」
ひとりごと