今日のことば

【原文】
天道・人事は皆漸を以て至る。楽(たのしみ)を未だ楽しからざるの日に楽しみ、患(うれい)を未だ患えざるの前に患うれば、則ち患免る可く、楽全うす可し。省みざる可けんや。〔『言志耋録』第285条〕

【意訳】
天地自然の出来事も、人間の行なうことも、すべて徐々に変化するものである。楽しいことをまだ周囲が気づく前に楽しみ、心配なことをまだ周囲が気づく前に心配しておけば、心配事を避けることができ、楽しみを全うすることができる。この点をよく省察しておくべきだ

一日一斎物語的解釈
リーダーの立場にある人は、人が気づく前に患い、人が気づく前に楽しみを味わうものだ。こうしていれば、大きなトラブルを回避でき、楽しみを充分に享受できるはずである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、4月から副社長に再昇格することが決定した川井企画室長の部屋に居るようです。

「川井さん、副社長昇格おめでとうございます」

「神坂、ありがとう。お前たち営業部の面々がしっかりと売り上げを稼いでくれたお陰さ」

「俺は嬉しいんですよ。平・川井の黄金コンビが最強だと思っていますから」

「ははは。俺は昇格したことより、社長が俺のことを理解してくれたことの方がうれしいんだ」

「はい!」

「社長に言われたよ。『COVID-19が流行したことで、川井の考えていたことが理解できたってな」

「どういうことですか?」

「俺はこれから先、医療商社が物流だけでは生き残れないと信じて、色々な手を打ってきたつもりだ。そのひとつがコンサルティング業務だ」

「コンサルティングですか?」

「あまりお前たちには詳細を話すことができていないが、俺は、いくつかのコンサルティング・ファームと組んで病院の経営改革を支援してきた」

「全然知りませんでした」

「そういう中で、今までとは違う金の使い方もした。社長は当初、それを不審に思い、俺を降格させた」

「・・・」

「もちろん、俺も焦り過ぎた部分があった。正直、口先だけで能力のないコンサルに金をつぎ込んでしまったのは事実だ」

「そのあたりはなんとなく聞いています」

「うん。しかし、ここにきて成果も出て来た。いくつかの市民病院とコンサルティング契約を結ぶことができ、投資した資金の回収にも目途が立ってきたんだ」

「さすがです!」

「多くの医療機器ディーラーが売り上げを落とす中で、このコンサル事業だけは着実に売り上げを伸ばしている。まだ、金額は小さいがな」

「やっぱり、川井さんは凄い。俺みたいなバカにはまったく理解ができない仕事です」

「ははは。そんなことはないさ。俺は、お前たちよりも少し早く、ディーラーの将来を心配し、少し早く手を打ったんだ」

「でも、その少し早く心配することが大事な気がします」

「そうなんだ。まだ他の競合企業が気づく前に、先を心配し対策を講じていけば、一歩先を歩くことができる」

「人より先に心配した分、後で笑えるわけですね。たしか、そういうのを先憂後楽というと教えてもらいました」

「おぉ、神坂もちゃんと勉強しているじゃないか。しかし、俺は先憂後楽ではないと思っている」

「え?」

「先憂後楽ではなく、先憂先楽だ」

先憂先楽ですか?」

「そうだ、人より先に患うことで、人より先にその先の楽しみを予測することができると思っている」

「あぁ、だから先憂先楽なんですね!」

「そんな言葉はないけどな」

「川井さん、あらためて尊敬します。そして、逆境に耐えて、会社を辞めずに居てくれたことに心からお礼を言いたいです!」

「神坂!」

二人は目頭を熱くしながら、強くお互いの手を握りしめたようです。


ひとりごと

好調の時にこそ、その先にある小さな転落の兆しをいち早く捕まえるべきです。

そして、逆境の時には、その中に微かに芽生えた成長の蕾をしっかりと結実させることです。

このように、先に憂いて、先に楽しむことが出来る人は、人の上に立っても立派な成果を上げることができるのでしょう。


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