今日のことば

【原文】
養老の方は恰(あたか)も是れ坤道(こんどう)なり。心は静を欲し、事は簡を欲し、衣は厚を欲し、食は柔を欲し、室は西南の暖を欲す。〔『言志耋録』第306条〕

【意訳】
老人の養生法というものは、まるで『易経』坤の卦に書かれた内容に沿っているようである。心は静かに、物事は明瞭簡潔に、着物は厚手のもの、食事は柔らかいものを選び、西南向きの暖かい部屋を望むものだ。

【一日一斎物語的解釈】
人は年齢に応じて生活を改めるべきである。無理に若い人の真似をすれば、かえって身体にも精神にも害悪を来たす恐れがある。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、相原会長とランチに出掛けたようです。

「そういえば会長、以前に柔らかいものを食べるようにしていると言ってましたよね?」

「最近、益々歯が悪くなってね。こうやって麺類を食べることが多くなったんだよね」

「以前はかつ丼をよく食べていましたよね」

「かつ丼かぁ。食べたいけどねぇ、嚙み切れないんだよ」

「歯は大切ですね。私も既に下の両奥歯を抜歯してしまっているので、将来が不安です」

「それ以上、歯を失わないようにしっかり歯磨きをした方がいいよ」

「40代のうちにやっておくことは他にありますか?」

「神坂君の場合は、髪の毛は大丈夫そうだね。そうなると、体重管理じゃないのかな?」

「やっぱりそこですか」

「太っている人で長生きする人は少ないからね」

「最近、体重が右肩上がりでして・・・」

「それから身体を冷やさないことかな。まぁ、これはもう少し年を取ってからの話かも知れないけどね」

「そういえば、一斎先生の言葉にそんな言葉があるんでしたね?」

「うん、佐藤君から教えてもらった。『年を取ったら、心は静かに、物事は明瞭簡潔に、着物は厚手のもの、食事は柔らかいものを選び、西南向きの暖かい部屋を望む』そうだよ

「あぁ、たしかに身体を温めろというメッセージがありますね」

「本当はこのうどんだって、温かいうどんより、冷たいうどんの方が好きなんだけどね」

「会長にはまだまだ会社に来て頂きたいですからね!」

「平君(社長)もそう言ってくれているし、なるべく体に負担を掛けないようにしているんだよ」

「心は静かに、物事は簡潔明瞭にというのは、どうですか?」

「さすがに最近は、あまり頭にくることもなくなったなぁ。まぁ、頭は生まれつきバカな方だから、複雑には考えられないんだよね」

「そうすると、一斎先生の言っていることをほとんで実行できているってことですね。さすがです!」

「でも、カッとしなくなったのは、熱意が減退しているんじゃないかと思うこともある。それに、たまには思い切り脂っこいものも食べてみたいし、生ものも食べたくなるよ」

「そういう時はお供しますよ」

「要するに高級料理のときだけは、お供するってことだね!」

「人聞きが悪いですよ、会長。会長の身になにかあった際に、即座に応対するためですよ」

「本当かなぁ?」

「以前に連れていってもらった天麩羅屋さんとかお寿司屋さんは、どこも旨かったもんなぁ」

「ほら、やっぱり!!」


ひとりごと

『易経』の坤為地の卦というのは、乾為天が天道を示すのに対して、地道を示すものと理解されています。

この坤為地の卦のなかに、「厚」・「至静」・「至柔」・「西南」といった言葉が出てくるところから、一斎先生はこの卦を「老人の養生」に関連づけて読まれたものと思われます。

こういう章句を読むと、若いうちに節制をしなければと思う気持ちと、今のうちに好きな物を好きなだけ食べておきたいという両方の気持ちが湧いてきます。

しかし、わが身は父母の遺体なりと考えれば、やはり節制しなければいけないのでしょうね。


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