今日のことば
【原文】
花木を観て以て目を養い、啼鳥(ていちょう)を聴いて以て耳を養い、香草を嗅いで以て鼻を養い、甘滑(かんかつ)を食(くら)いて以て口を養い、時に大小の字を揮灑(きさい)して以て臂腕(ひわん)を養い、園中に徜徉(しょうよう)して以て股脚(こきゃく)を養う。凡そ物其の節度を得れば、皆以て養を為すに足るのみ。〔『言志耋録』第314条〕
【意訳】
花や木を鑑賞して目を養い、鳥の鳴く声を聴いて耳を養い、香草の香りで鼻を養い、甘くてやわらかなものを食べて口を養い、時には大小の文字を書いて肱や腕を養い、庭を散策しては股関節や脚を養う。なにごとも節度をもって行えば、すべてが養生となるものだ。
【一日一斎物語的解釈】
どんな物事であっても、節度をもって実施すれば、すべてが養生となるものだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、佐藤部長と同行中のようです。
「やっぱり桜は綺麗ですねぇ。この淡いピンク色が儚さを感じさせる。そこがまた良いですよね」
「ははは。神坂君もいつの間にか風流人になってきたね」
「え、そうですか? 風流人か、良い響きですね」
「去年はCOVID-19の蔓延のせいで、いつの間にか桜の季節も終わってしまっていたよね」
「はい、なんだか四季を感じることのないまま、淡々と一年が終ってしまった印象があります」
「日本には四季がある。春には桜を愛で、夏には海に遊び、秋は紅葉を楽しみ、冬は雪景色を味わうことができる。素晴らしい国であることを忘れてはいけないね」
「そして、どんな場面にも日本酒が合います」
「うん。花見酒、月見酒、雪見酒。風流だよね」
「美しい景色で目を養い、鳥の声や風の音で耳を養い、美味しい料理と酒で鼻と口とお腹を養う。たしか、そんな言葉が一斎先生の言葉にありましたよね?」
「あるね。どんなことでも節度を保てば養生になる、と締めくくっている『言志耋録』の言葉だね」
「今年も花見酒は難しそうですね」
「そうだね。せめて月見酒の頃には、みんなで飲みたいね」
「みんなで飲むと心の養生になりますよね」
「人間は、人間同士の交流の中でこそ、真の喜びを得ることができるからねぇ」
「本当にそうですね。人に好かれたり、褒められたりすれば嬉しいけど、仮に叱られたり、非難されたとしても、何も反応がないよりはよっぽどマシですからね」
「嫌なことがあったら、最後はお酒が助けてくれるもんね」
「そのとおりです! 今日は寂しく、窓の外から桜を愛でながら、手酌酒といきますよ」
「私もそうしようかな!」
ひとりごと
四季を楽しむことができるのは、日本人の特権でしょうか?
季節の移り変わりを感じながら一年を過ごすのが日本人の生き方のはずです。
ところが昨年はCOVID-19によって、そんな風流心が奪われてしまいました。
一人桜を愛でてきました。
心に栄養を与える時間大事ですね。