今日のことば
【原文】
老を養うは一の安の字を占(たも)つを要す。心安く、身安く、事安し。何の養か之に如かん。〔『言志耋録』第321条〕
【意訳】
年を取った人の養生には、「安」の一字をつねに保つことが肝要である。心を安らかに、身体も安らかにして、さらに事を処理するにも安らかに行なう。それ以上の養生はないのだ。
【一日一斎物語的解釈】
心安く、身安く、事安し、これに勝る養生はない。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、元同僚・西郷さんと食事をしているようです。
「私の周りにいらっしゃる高齢者の方々は、皆さん本当に素敵な人が多いんですよね」
「それはもしかしたら、神坂君がそういう人たちを惹きつけているのかも知れないよ」
「え、私がですか?」
「うん。『論語』にある話なんだけどね。孔子が子路と顔回にそれぞれの志を聞いた後、今度は子路が孔子に志を教えてくれと頼む場面がある」
「子路らしいですね」
「ははは、たしかにね。子路でなければ、師である孔子に直接志を聞くなんてことはできなかっただろうね」
「子路の面目躍如ですね。それで、孔子の志とは?」
「『老者は之を安んじ、朋友は之を信じ、少者は之を懐けん』と答えたんだ」
「どういう意味ですか?」
「お年寄りの心を安らかにし、友達とは信をもって交わり、若者には親しみなつかれるような人間になりたい、という意味だよ」
「おぉ、さすがにデカい志ですね!」
「今の神坂君の話を聞いて、この言葉を思い出したんだ。つまり、神坂君はお年寄りの心を安んじることができるから、素敵な高齢者たちが集まってくるんじゃないかな?」
「ということは、私は孔子の志を実現できているということですか?」
「そうかもしれないよ!」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。やっぱり私はまだまだです」
「なぜ?」
「少なくとも、朋友と思われる大累や新美と信頼関係で結ばれているかと考えてみたんですけどえね。どう考えても舐められている気がします」
「ははは。そんなことないと思うよ。あの二人は神坂君が大好きだよ、きっと」
「そうですかね? 仮にそうだとしてもですよ、少者と思われる石崎は、完全に私を馬鹿にしていますからね」
「それも違うと思うけどね。まあ、課題をもつことは良いことだ。それなら朋友と少者との関係構築が当面の課題ということだろうからね」
「そうですね。そう思うことにします!」
「いずれにしても、心も安らかに、身も安らかにして、そして事に処する際にも安らかに行うことができることが、人生を安らかに生きる秘訣なんだろうね」
「そうですね。私なんてイライラばかりですから、これじゃ長生きできそうもありません」
「うん、心安らかに行こうね!」
ひとりごと
心と体と行いを安らかに。
これが最高の養生だと、一斎先生は言います。
安らかに行動する、実はこれが一番難しいかも知れませんね。