今日のことば
【原文】
釈は死生を以て一大事と為す。我れは則ち謂う、「昼夜は是れ一日の死生にして、呼吸は是れ一時の死生なり。只だ是れ尋常の事のみ」と。然るに我れの我れたる所以の者は、蓋し死生の外に在り。須らく善く自ら覔(もと)めて之を自得すべし。〔『言志耋録』第337条〕
【意訳】
仏教では死生を第一義の重大事としている。私はこう言いたい、「昼と夜はそのまま一日の生と死であり、呼吸もまた一瞬の生と死である。つまり死生とは日常のことなのだ」と。自分が自分であることの意味は、死生とは別のところにある。よく自分のことを探求して、その真意を会得せねばならない。
【一日一斎物語的解釈】
死生にとらわれてはいけない。自分の本分をよく見極め、自分の存在意義を弁えて生きねばならない。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、G市民病院の安田消化器内科部長を訪れたようです。
「安田先生、少し元気がないようですが、体調でも悪いんですか?」
「ははは。お前は人の気持ちを察する術に長けているな。実は、昨日患者さんが亡くなってな。まだ43歳の働き盛りの男性だったんだが、発見時にはすでにステージⅣの膵臓がんでな」
「膵臓がんは、5年生存率が10%未満ですもんね。まして、ステージⅣだと厳しいでしょうね」
「うん。その患者さんから『私の命は先生に預けます』と言われてな。やるだけのことはやったつもりだが、結局助けることができなかったんだよ」
「そうですか、ほぼ私と同年代です。身につまされます」
「しかし、彼が立派だったのは、死生を超越していたことだった」
「どういうことですか?」
「自分は毎日、昼と夜を経験することで、疑似的に生と死を経験できている。夜を迎えてその日の自分を後悔するような生き方をしていたら、実際の死に際してもきっと後悔するだろう。そう思って、毎日を精一杯生きてきたから、もしここで寿命が尽きるなら、ジタバタせずに受け入れるつもりだ、と言っていた」
「すごい! 私は同世代ですが、そんなに腹を括れません!」
「俺もそうさ。しかし、俺は彼をもっと生かせてあげたかった。自分のできることはすべてやり切ったと思う反面、まだ何かできたのではないかと自分を責めてしまうんだよ」
「その患者さんと最後に交した言葉は、どんな言葉だったのですか?」
「『先生、ありがとう』と握手しながら言ってくれた。手を握る力は本当にか弱かったけどな」
「安田先生、患者さんがそう言ってくれたなら、後悔する必要はないですよ。先生に診てもらえて良かったと思っているはずです」
「そうだな。俺にはまだたくさんの患者さんがいる。彼の命の分まで、他の患者さんの命を長らえないとな。それが天が俺に与えた使命なんだと思う」
「本当に微力ではありますが、私もご協力させてください。私の使命は、ドクターの医療行為のご支援をさせて頂くことです。がんで死ぬ人を一人でも減らすために、力を尽くします!」
「そうだな。神坂は、俺にとって大切なパートナーだよ。これからもよろしく頼むな!」
「もったいないお言葉です。こちらこそ、よろしくお願いします!」