今日のことば

【原文】
臨歿の工夫は宜しく一念に未生の我れを覔(もと)むべし。「始め原(たず)ね終(おわり)に反(かえ)り、死生の説を知る」とは是れなり。〔『言志耋録』第338条〕

【意訳】
臨終を迎えるにおいては、まだ自分が生まれる前の自我というものを探求すべきである。『易経』に「始めを原ね終に反り、死生の説を知る(生まれる前のことを考えてみれば、死後のこともわかるはずだ。それが死生を知るということだ」とあるのは、このことを言うのである

一日一斎物語的解釈
死後の世界を知りたいなら、生まれる前の世界を想像せよ。自分がどのように生まれて来たかに思いを馳せれば、生の意味も明白となろう。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の善久君と同行中のようです。

「昨日、K厚生病院へ行ったら、地下で遺体と思われるものをベッドに乗せて運んでいるところに遭遇しました」

「地下には霊安室があるからな」

「はい。後で松田先生に聞いたんですけど、大腸癌の患者さんだったようです」

「女性か?」

「はい」

「女性の死因の一位は、大腸癌による死亡だからな」

「課長、死後の世界ってどうなっているんですかね?」

「そんなの俺が知ってるわけないだろう。善久は死ぬのが怖いか?」

「めちゃくちゃ怖いです」

「そうか。それなら、生まれる前の世界を想像してごらん」

「生まれる前の世界ですか? うーん」

「怖い世界か?」

「いえ、母親の胎内で安全に守られているイメージがあります」

「うん、決して怖い世界ではないだろ?」

「はい」

「死んだら、またその世界に戻っていくんじゃないかな?」

「あぁ、そうなんですかね?」

「完全に守られていて、ストレスも悩みもない世界にさ」

「それならいいですね」

「だから、生きている間くらいは、ちょっとシンドイことがあっても、哀しいことがあっても、なんとか乗り越えていきたいよな。死ねばまた守られた世界で暮らせるんだからさ」

「そんな風に考えると、死ぬのが怖くなくなりますね」

「だろ? かといって、自分から命を絶つのはダメだぞ。生きている間は、なんとかして生き抜いていかないとな」

「はい! とにかく、今の仕事を頑張ります!」

「仕事だけか? 恋愛も楽しんだ方がいいぞ。女がいてこそ男は輝くからな」

「そっちはちょっと自信がないですけど・・・、頑張ります」


ひとりごと

死後の世界がどうかなどと考えても仕方がありません。

きっと素敵な世界だろうくらいに考えて、とにかく今できることを精一杯楽しむべきでしょう。

もしかしたら、生を生き抜いた人とそうでない人とで、死後の世界の入り口が違うかも知れませんよ。


osoushiki_shinpai