今日のことば
【原文】
誠意は是れ終身の工夫なり。一息尚お存すれば一息の意有り。臨歿には只だ澹然として累無きを要す。即ち是れ臨歿の誠意なり。〔『言志耋録』第339条〕
【意訳】
心を誠にすることは、一生を通じて心に留めておくべきことである。一息つくにも一息の心が宿っている。臨終に際しては、ただ淡々として煩いのない心の在り様であるべきだ。これこそが臨終における誠の心なのである。
【一日一斎物語的解釈】
生を全うして死期が迫ったときは、ただなすがままに身を委ね、粛々としてお迎えを待つ心境でいよう。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、ひとりで行きつけの喫茶店の個室を借りて、いろいろと考え事をしているようです。
「最近、やたらと人の死に直面するよな。これは天からのメッセージなのかも知れないな」
「いったい俺に何を気づけというのだろうか?」
持ってきた数冊の本を気まぐれにめくりながら、また考えています。
「あらためて実感するところだけど、人間って生まれることも死ぬことも自分で好きなようには選べないんだよな」
「だけど死後の世界が、この現世よりも厳しい世界のようには思えない」
「そう考えると、『生きることは苦しいことだ』という言葉も肚に落とせるよな。前世・現世・死後とすべてを一気通貫でみれば、ひとりの人間の幸不幸もちゃんとバランスが取れているのかも知れないぞ」
苦めのコーヒーに角砂糖3つが神坂課長の定番です。
「うん、旨い。ここのオリジナルブレンドは俺の好みにピッタリだ。至福の時間だな」
「待てよ、生きることは苦しいことばかりじゃない。こうやって幸せな時間もある。もしかしたら、死後の世界は苦もなければ、楽もないのかな?」
「だとしたら、今を精一杯楽しんで、時には苦しんで、泣いて、また笑って、酒を飲んで、くだを巻いて、疲れたら寝るという生き方は生きている今しか味わえないんだな」
「あれこれ死後のことを考えても仕方がないな。コロナ禍と言われる今だって、もしかしたら貴重な体験なのかも知れない」
二杯目のコーヒーを注文して、また書籍に目を通しています。
「一斎先生の最晩年の言葉には、むしろ葛藤を感じてしまうなぁ。本当は淡々と死を迎えるべきなのに、それが出来ない自分と戦っている一斎先生が見えてしまう」
「でも、そこが人間臭くていいのかな? 間違いなく俺は、死ぬ間際まで死を安らかに受け容れられるなんてできそうもないもんな」
「生まれてから四十数年、考えてみればいろいろあった。結婚してガキが生まれ、まさかの兄の死も経験した」
「人生は一寸先ですら、よくわからない。だけど、坂村真民さんのように、『一寸先は光』だと信じて、自分のできることに全力投球でいくしかないな!」
コーヒーを一気に飲み干した神坂課長は、個室を出て支払いを済ませ、ようやく春の兆しが見え始めた4月の午後の街中へと消えていったようです。
ひとりごと
死後の世界をどう捉えるかによって、今の生き方も変わるのではないでしょうか?
死後の世界はきっと、現世よりは穏やかな世界のはずです。
しかし、その分楽しみも少ないかも知れません。
苦中楽有りです。
今を精一杯生きて、たくさん笑って、たくさん泣きましょう!