今日のことば
【原文】
三代以上の意思を以て、三代以上の文字を読め。〔『言志録』第12条〕
【意訳】
古の理想の時代とされた夏・殷・周の三代における思想に捉われることなく思索し、三代の時代の書籍のみに執着せずに天地自然の声を聞け。
【一日一斎物語的解釈】
過去の思想に拘泥せず自由な意思で思索し、古典のみに固執せずに宇宙の摂理に耳を傾けよ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、「季節の料理 ちさと」に居るようです。
「なんだか最近、神坂君の顔つきが変わってきたよね」
「え、どんな風に?」
「なんか馬鹿っぽくなくなった」
「客をつかまえて馬鹿とはなんだ! まったく酷い店だよ!」
「あ、本当に怒った?」
「もう慣れてるから怒りはしないよ。呆れてはいるけど」
「ほら、そういう応対もなんか大人になった気がする」
「あのね、ママ。俺はもう40を越えたおっさんだよ。いつまで子供扱いするんだよ」
「重ねて失礼しました。(笑)」
「笑い事じゃないよ。今日はなんか一品余分にサービスしてくれないと承知しないからな!」
「はいはい、お任せください。やっぱり読書って顔を創るよね」
「そういうもんなの?」
「うん、私のバイブルには、『人は一生をかけて自分の面を創るようなものだ』って書いてあるの」
「読書は顔を創るのか。やっぱり古典は凄いなぁ」
「最近、古典を勉強しているんだよね?」
「うん、主に『言志四録』と『論語』だけどね」
「そうか。それならそろそろ当代の一流の書にも目を向けた方がいいかもよ」
「え?」
「私のバイブルには、『古典を読むだけではダメだ。当代一流の人の書を読むべきだ』とも書いてある」
「当代一流の人って、たとえば誰なのかな?」
「私のバイブル『修身教授録』を書いた森信三先生とか、安岡正篤先生、もしくは松下幸之助さんとか稲盛和夫さんなんかはどうかしら?」
「やっぱりその辺かな。佐藤部長にも聞いてみよう」
「あとは、昔の思想や古典だけでなくて、もっと目を見開いて大自然の法則にも耳を傾けた方がいいらしいわ」
「でっかい話だなぁ」
「森信三先生は、二宮尊徳の『二宮翁夜話』の最初に書かれている、『天地不書の経を読め』という言葉で、目を開かれたらしいの」
「まだ、俺には理解できない世界だなぁ。でもたしかに最近読む本には、『宇宙の摂理』とか『大自然の法則』とか『サムシング・グレート』なんていう言葉がよく出てくるんだよね」
「うん。そういうものを意識すると、自分が生かされているということに気づけるからね」
「やっぱりママも只者じゃないな」
「ただの小料理屋の女将よ。さて、今日のスペシャル・サービスは、瀬戸内産の鰆(さわら)の大根おろしあんかけです」
「おー、旨そう。口の悪いババアとの会話のお口直しには最適だな」
「誰がババアよ!!」
ひとりごと
国民教育者の故・森信三先生は、『二宮翁夜話』の劈頭の言葉「音もなく香もなく常に天地(あめつち)はかかざる経をくりかえしつつ」を読んで開眼したと語っています。
読書だけでは駄目で、読書と実践が車の両輪であるとも森先生は言っています。
本を読み、広く思索し、そして実践する。
このサイクルを回していくことで、人の顔も完成に近づくのかも知れません。