今日のことば
【原文】
自ら責むること厳なる者は、人を責むることも亦厳なり。人を恕すること寛なる者は、自ら恕することも亦寛なり。皆一偏たるを免れず。君子は則ち躬自ら厚うして、薄く人を責む。〔『言志録』第30条〕
【意訳】
自分に厳しい人は他人にも厳しく、自分に甘い人は人にも寛容である。このようにどちらかに偏るのが人の常だが、君子と呼ばれる人は、自分には厳しくとも他人には寛大に接するものだ。
【一日一斎物語的解釈】
自分には厳しく、他人には寛容であれ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、営業部特販課の大累課長とランチ中のようです。
「そういえば、Y社の菊池さんが課長になるんですって?」
「なんだ、お前も聞いたのか」
「みんなにベラベラしゃべっているみたいですよ」
「あいつの口の軽さは、文鳥の羽より軽いからな」
「そのお陰で、いろいろ情報を仕入れているのがあなたじゃないですか!」
「バレたか!」
「あの人もどちらかというと人格に難ありですよね?」
「うん、でも彼なりに悩んではいるらしいぞ」
「神坂さんに相談してきたんですか?」
「そう。相手を間違っているよな」
「確実に間違っています」
「ゴン」
「痛っ。ほら、今どきこんな暴力を振るうパワハラ男に相談するなんて、菊池さんの目も節穴だな」
「やかましいわ。相談されないお前の方が悲しいぜ」
「たしかに・・・。で、どんなアドバイスをしたんですか?」
「そりゃ、決まっているだろう。自分には厳しく、他人には優しく接しなさい、ってことだよ」
「ぶっ」
「汚ねぇな、吐くなよ」
「いや、あまりにも無責任なアドバイスを聞いたもんで」
「いちいちうるせぇな。そりゃ、俺もできていないかも知れない。でも、できていないからこそ、アドバイスできることもあるだろ」
「屁理屈じゃないですか?」
「タイガー・ウッズのコーチだった、ブッチ・ハーモンだって、実際に指導していることができる訳じゃないだろ」
「まぁ、たしかに神坂さんのアドバイスは間違っていませんね。どの口が言うかということは置いておけば」
「自分に厳しい奴は他人にも厳しく、自分に甘い奴は他人にも甘くなりがちだからな」
「それはありますね」
「でも、お前の場合は、他人に厳しく、自分に甘いよな」
「そのセリフ、そっくりそのままアンタにお返しするわ!!」
ひとりごと
この章句とほぼ同じ内容を後に一斎先生は、「春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む。〔『言志後録』第33章〕」という箴言に昇華しています。
特に上に立つ人は、この言葉を何度も反芻して心に留めておくべきです。
もちろん、小生にとっても耳が痛い言葉でもあり、忘れてはいけない言葉でもあります。