今日のことば

原文】
五穀自ら生ず。耒耜(らいし)を仮りて以て之を助く。人臣の財成輔相も、亦此れと似たり。〔『言志録』第50条〕

【意訳】
穀物は自然に生ずるとしても、人の手を介さない限り食べることができる状態にはならない。それと同じように人材もリーダーの手助けがないかぎり思うようには成長しないものだ。

【一日一斎物語的解釈】
リーダーは、メンバーの自発的な成長力をサポートすればよい。強制的に生育させようとすれば、植物が枯れてしまうように、人も育たない


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚の西郷さんと食事をしているようです。

「さすがに20日には緊急事態宣言も解除になりそうですね」

「うん。全国的に重傷者も減っては来ているからね。それにワクチンの接種も少しずつ軌道に乗ってきたみたいだしね」

「そうですね。我々の担当施設でも、接種会場になっている病院がいくつかあります。サイさんはもう接種したのですか?」

「近々、第一回目を接種できそうだよ」

「そうですか、早く打ち終えて安心したいですね」

「そうだね。読書会の後に皆さんと懇親会もやりたいからねぇ」

「本当ですよ。一体いつから大人数の飲み会をやっていないんだろうなぁ?」

「ははは、もう少しの辛抱だよ。ところで、我が古巣の営業1課はその後どう?」

「新美が頑張っています。あいつは真面目ですから、組織としてはまとまってきたんじゃないかな?」

「それは嬉しいな。新美君は最初の頃、すごく悩んでいて私にもよく連絡が来たよ」

「やっぱりそうですか? ということは、例の『助長』の話をしたんですね?」

「あれ、その話、神坂君にも話したんだっけ?」

「強烈に覚えていますよ。たしか『孟子』の中に出てくる話ですよね。ある農家の男が自分の畑の苗が周りに比べて、あまり成長していないように感じた」

「そこで、その男は苗を一本ずつ無理やり引っ張って成長を助長してあげたと夕飯の時に語るんだ」

「それを聴いたその男の息子が慌てて畑に行ってみると、苗はすべて枯れていた」

「その故事から、間違った助長をすれば植物が枯れてしまうように、人もまた無理に成長を促せば育つ者も育たなくなる。つまり自発力を抑え込まないような指導と援助が必要だ、という教えになったという話だね」

「はい、何度聞いても説得力があります。で、これを新美にも話したんですね?」

「そのとおり。(笑)」

「私はついついメンバーを無理やり引っ張って伸ばしてやろうと思うところがあるから、あの話は本当に肚に落ちました。新前リーダーは部下育成に突っ込み過ぎてしまう傾向があるので、きっと新美も肚落ちしたと思いますよ」

「そうだと嬉しいね」

「それで、次は清水に同じ話をしてもらえませんか?」

「え、清水君に?」

実はあいつもマネジメントに興味を持ち出しましてね」

「ほほぉー、それは素晴らしいことだね! 神坂君の影響じゃないの?」

「そう言ってくれるんです。でも、私みたいな半端なリーダーの話ばかりじゃなく、色々な人の話を聞けと言ってあります」

「私に連絡がくるかな?」

「必ず連絡してきますよ。あいつもサイさんのことは信奉していましたから!」


ひとりごと 

『孟子』の中に出てくる助長の出典となったエピソードを再度取り上げてみました。

一斎先生の言葉を反対側から捉えると、この助長の仕方が問題だと読み取れる章句だと感じたからです。

農作物を無理に引っ張ったところで、発育しないことは誰しも理解できるでしょう。

しかし、人材育成となると、知らぬ間にこの農家の男と同じことをやっていることはないでしょうか?

時に自問自答するためにも、重要な故事ですね。


hatake