今日のことば

原文】
家翁、今年齢八十有六。側(かたわら)に人多き時は、神気自ら能く壮実なれども、人少なき時は、神気頓(とみ)に衰脱す。余思う、子孫男女は同体一気なれば、其の頼んで以て安んずる所の者固よりなり。但だ此れのみならず、老人は気乏しく、人の気を得て以て之を助く。蓋し一時気体調和して、温補薬味を服するが如く一般なり。此れ其の人多きを愛して、人少なきを愛せざる所以なり。因(よ)りて悟る。王制に「八十、人に非ざれば煖(だん)ならず」とは、蓋し人の気を以て之を煖(あたた)むるを謂いて、膚嫗(ふう)の謂に非ざるを。(癸酉臈月小寒節の後五日録す)〔『言志録』第53条〕

【意訳】
自分の父(佐藤信由)を見ていると、周囲に人が多勢いるときは元気であるが、そうでないときは気が抜けたようになる。だから老人が子孫男女が集まることを求めるのは当然であるし、またそこから生きる活力を得るのであろう。これはまるで湯たんぽで体を温めたり、薬を飲むのと同じようなものである。老人が周囲に人が多勢いることを好んで、そうでないことを避けるのはこういう理由である。『礼記』王制篇にある「人は八十歳になれば、人でなければ体が煖まらない」という言葉の意味は、こういうことを指しており、老人は周囲に人がいることで元気を得るのであって、寄り添う老婆がおれば良いということではないということだと理解した、と一斎先生は言います。

【一日一斎物語的解釈】
高齢になると、人と触れ合うことでしか自らを温めることができない、という。高齢者を孤独にしてはいけない


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「ようやく緊急事態宣言は解除になりますが、今年の夏は実家に帰るべきか否か、判断が難しいですね」

「まん延防止等重点措置は継続しますからね」

「でも、息子さんたちの成長は早いから、ご両親に会わせてあげたいよね?」

「そうなんです。両親もいつまで元気でいられるかわかりませんし、ガキどももいつまで実家についてくるかわかりません」

「うん。神坂君の実家は千葉だったね?」

「はい。ちょうどオリンピックの期間というのも気にはなります」

「車で行くんでしょ? 実家でのんびりすれば良いんじゃないかな」

「部長は移動賛成派ですか?」

「限定条件付きでね」

「どういうことですか?」

「若い人同士の旅行などは、もうしばらく控えてもらいたい。しかし、帰省のようなケースは一年先延ばしするだけで、先ほど神坂君が言っていたような問題が出て来るよね」

「年老いた祖父母に孫を会わせる帰省なら賛成ということですね?」

「そう。実は、一斎先生がこんなことを言っているんだ。まだ一斎先生が若かりし頃、父親が子供や孫に囲まれているときは元気なのに、一人になると途端に元気がなくなるのを見て、『礼記』の言葉を引いているんだ」

「どんな言葉ですか? 教えてください」

「『八十、人に非ざれば煖(だん)ならず』。八十にもなると人は、他人と触れ合うことでしか自らを温められなくなる、というような意味の言葉だね」

「なるほど。たしかに孫に会っているときの両親の顔は本当に幸せそうです」

「心も体も最高に温まっているからじゃないかな」

「そうですか、一斎先生がそんな言葉を。よし、心が決まりました! この夏は帰省します!」

「うん。ご両親をしっかり温めてあげるんだよ」

「真夏ですけどね。(笑)」

「あー、そうだね。熱中症にならない程度に!!」

「御意!」


ひとりごと 

ようやく沖縄県を除いて緊急事態宣言は解除されます。

今年の夏の帰省をどうすべきか悩んでいる方も多いでしょう。

このストーリーと一斎先生が引用した『礼記』の名言を参考にして、どうすべきかご自身でご判断ください!


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