今日のことば
【原文】
邦(くに)、道有れば、則ち君は大臣と権を譲る。権は徳に在りて力に在らず。邦、道無ければ、則ち君は大臣と権を争う。権は力に在りて徳に在らず。権、徳に在れば、則ち権、上を離れず。権、力に在れば、則ち権遂に下に帰す。故に政を為すには、唯だ徳礼を以てするを之れ尚(とうと)しと為す。〔『言志録』第85条〕
【意訳】
組織運営に正しい道が敷かれていれば、トップと幹部とは権力を譲り合う。このとき権力は徳のある者に集まり、力の有無によらない。組織に正しい道がないときには、トップと幹部とは権力を奪い合う。このときは権力は力の大小で左右され、徳の有無によらない。権力が徳の有無で決まるときは、その権力はトップにあるが、権力が力の有無で決まるときは、その権力はトップから奪われてしまう。だからこそ組織をマネジメントするときは、徳と礼によって行われることが尊いのである。
【一日一斎物語的解釈】
正しいマネジメントが敷かれているときには、トップと幹部は協力し、権力を譲り合う。しかし、正しいマネジメントがなされていないときには、トップと幹部が権力を奪い合う。権力というのは、力ではなく徳のある者のところに落ち着く。マネジメントを行うには、トップが徳を有していることが、なにより重要である。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、大累課長とランチ中のようです。
「そういえば神坂さん、S医療器の小杉さんと面談したそうですね?」
「情報が早いな。誰から聞いたんだよ?」
「それは秘密です。で、S医療器はどうなりそうですか?」
「かなり厳しい状況に追い込まれたんじゃないかな。小杉君は退職の意向を持っているようだ」
「やはりそうですか。一方で社長よりも梶山専務の方が社員さんの信望を得ているようです」
「そうらしいな。梶山さんが遠山社長を追い出すか、あるいは有能な部下を連れて出るという噂もあるらしい」
「ボンボンの二代目で、贅沢し放題の遠山社長には誰一人ついていかないという感じらしいです」
「権力というのは、力ではなく徳のある者のところに落ち着く、と一斎先生も言っているからなぁ」
「人徳ということですね?」
「うん、俺たちもその点ではまだまだじゃないか?」
「たしかに。メンバーが私のことを徳のある上司だとは思っていないでしょうね」
「お前は特にな。ウチの課は全滅ではないと思うけどね」
「よく言いますよ。私の個人的な意見としては、神坂さんよりは私の方が徳があると思っていますけどね」
「毎日のように部下と喧嘩している上司に徳があるなんて、誰が思うんだよ!」
「巨人が負けたかどうかで、応対が変わる上司もどうかと思いますよ?」
「なんだと!」
「やりますか!」
「なんてことやってたら永遠に徳は身につかないな」
「まったくです。我慢することも覚えましょう」
「堪忍は無事長久の基だからな」
ひとりごと
権力は力を持つ者ではなく、徳を持つ者の下にある、という一斎先生の言葉は良いですね。
トップに立つと、俺の時代が来たとばかりに強権を発動する人がいますが、それをやったら権力はスルリと手元から零れ落ちてしまうのかも知れません。
実際、過去の小生はそういうリーダーだったので、その後に痛い目に遭うことになったのでしょう。
徳の本は堪忍にあり!