今日のことば

原文】
大臣の権を弄ぶの風は、多く幼主よりして起る。権一たび下に移れば、復た収む可からず。主、年既に長ずれども、仍(なお)虚器を擁し、沿襲して風を成せば、則ち患、後昆に遺る。但だ大臣其の人を得れば、則ち独り此の患無きのみ。〔『言志録』第86条〕

【意訳】
幹部が権力を欲しいままにするのは、君主が幼少のときである。権力は下位者に移れば二度と取り返せない。君主が成人となっても、そのまま飾り物にされ、それが踏襲されると、禍は後世にまで伝わる。徳の高い人を幹部に立てることができれば、そうした禍は起こらない。

【一日一斎物語的解釈
幹部に徳のある人物を据えなければ、若いリーダーを傀儡にして、幹部が権力を奪い、組織に災いを及ぼすことになる。権力は一度掌握されれば、再び取り返すのは至難の業である。


今日のストーリー

昨日に続き、今日も神坂課長は、営業部特販課の大累課長とランチに出掛けたようです。

「神坂さん、昨日新しい情報をキャッチしましたよ」

「S医療器の話か?」

「はい。やはり、専務の梶山さんは仲間を連れて退職する方向らしいです」

「何人くらい引き連れていくんだ?」

「最低でも4人は確実なようです」

「あそこの営業マンって、20人もいなかったんじゃないか?」

「そうだと思います。それに別口ですけど、小杉さんも退職するんですよね?」

「彼もほぼ確定だな。そうなると四分の一くらいの社員は居なくなることになるよな」

「それも売上上位のメンバーばかりでしょうから、大打撃ですね」

「打撃どころか、会社の存続に関わってくるんじゃないかなぁ」

「梶山さんも癖の強い人ですよね」

「あの人のやり方は俺は大嫌いだな。自分さえ儲かれば良いという考え方で、同業を徹底的に叩いてくるからなぁ」

「結局、S医療器は、トップもナンバー2も人格者ではなかったということですね」

「そういうことだろうな」

「個人的には先代の気持ちを想うと複雑です」

「あ、そうか。お前は先代には可愛がってもらってたもんな」

「競合している私たちにも真摯に接してくれましたし、いろいろ教えてもらいました。私の恩人のひとりですよ」

「そういえば、先代が亡くなった時、お前はめちゃくちゃ泣いていたもんな」

「亡骸をみたら、涙が止まらなくなりました」

「一度失った権力は、簡単には取り戻せないんだ。だからこそ、若い二代目をサポートするような幹部社員を置くべきなんだよな。しかし、先代はそこを誤ったんだろうな」

「複雑な心境です」

「S医療器が穴を開けることで、お客様に迷惑が掛からないようなフォローを心掛けよう。すぐに顧客になってもらおうなどと思わずにな」

「そうですね、見返りを求めずにお客様のためにやれることをやりましょう。それがせめてもの先代への恩返しになるはずですから!」


ひとりごと

古参の幹部が若いトップを傀儡にして権力を奪い、その結果として、組織に大きな打撃を与える、という事例を少なからず見聞きしてきました。

トップだけでなく、役員や幹部にも徳の低い人を据えてはいけないということでしょう。

問題なのは、組織が壊滅することによって、お客様に迷惑がかかることです。

人の上に立つ人は、徳を磨き、常にお客様のために自社があることを忘れてはいけません。


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