今日のことば
【原文】
夏后氏而来(じらい)、人君皆子に伝う。是れ其の禄を世にするなり。人君既に自ら其の禄を世にして、而も人臣をして独り其の禄を世にするを得ざらしむる者は、斯れ亦自ら私するならざらんや。故に世禄の法は、天下の公なり。〔『言志録』第104条〕
【意訳】
禹がその業績を讃えられて舜から帝位を譲り受けて夏后氏(夏王朝の始祖)となって以来、君主はその帝位を世襲とした。これが禄を世に伝えた始めである。君主が世襲制度を敷いて、臣下には位を継承しないのは、帝位を私物化することになる。よって世襲の制度を敷くことは、天下の公事である。
【一日一斎物語的解釈】
トップが社長の座を世襲とし、血縁関係のない部下に譲ることがないのは危険である。社業を世襲制度によって維持していくためには、後継者である子息に帝王学を学ばせ、社長を任せることができるだけの人間力を身につけさせねばならない。無理をすれば、会社は傾くことになるであろう。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、N大学医学部附属病院の倉庫脇にある休憩室でY社の菊池さんと雑談中のようです。
「神坂さん、やはりS医療器は売りに出ているようです」
「買い手も決まっているんだろう?」
「おそらくK医科だと思います。
「そうなの? 俺はてっきり御社かと思っていたよ」
「有能な社員さんはほぼ残りませんからね。ウチにはメリットがないですよ。K医科さんは、病院の口座が欲しいんだと思いますよ」
「なるほどね。やはりS医療器は、先代が急死したのが大きいね。ただ、人格者と言われた先代にしては、息子の教育は誤ったよなぁ」
「20歳以上若い後妻との間の子ですからね。甘やかしすぎてしまったんでしょう」
「後継者にはしっかりと帝王学を学ばせ、人間力を身につけさせてから社長の座を譲らないと会社は傾くんだ。そんな事例は枚挙に暇がないよ」
「そうですね。一旦、梶山専務に社長の座を渡すべきだったと思いますが、奥様が頑なに反対して息子を社長に据えたんでしたね」
「バカな女だよ、まったく!」
「そうはいっても、世襲制を敷く中小企業は多いですよね」
「せっかく自分で創った会社を身内に継がせたいという気持ちはわかるけどね。それならしっかりと教育をしないとな」
「そうですよねぇ」
「かつて中国の王朝も禅譲といって、有能な部下に帝位を継がせていたらしい。それがある時期から世襲制に変わったらしいんだ。その結果、中国では定期的に王朝の交代が起きているんだよ」
「へぇー、そうなんですか。でも、日本の皇室も世襲ですよね?」
「うん。ただ、やはり皇室は特別なんだろうな。鎌倉・室町・江戸幕府といった武家政治は15代まで続くのがやっとだというのに、皇室だけはいまの陛下で126代目だからな」
「どういう風に特別なんですか?」
「どんなことがあっても天皇は天皇という考え方が日本人のDNAの中にあるのかもな。なにせ、政権を握った平清盛や織田信長でさえ、天皇になろうとは思わなかったようだから」
「神坂さん、勉強していますね」
「まあな。菊池君も課長になるんだから、勉強しないとダメだぞ」
「別に社長になるわけではないので・・・」
「いや課長になれば課を任されるんだから、やはり帝王学や人間学は学ぶべきだよ!!」
ひとりごと
堯から舜へ、舜から禹へと中国の皇帝の位は禅譲されました。
禹も息子ではなく、別の部下に帝位を継がせたかったようですが、禹の死後、取り巻きによって息子が王位に就かされます。
そこから世襲が始まったのです。
世襲がいけないというわけではないですが、優秀な部下が居ながらその人に継がせないというのは、大きなリスクです。
それでも世襲を貫きたいなら、しっかりと教育をしなければなりません。