今日のことば

原文】
近代の孝子を賞するに、金帛粟米(きんぱくぞくべい)を賜いて以て之を旌(あら)わす。頽俗を風励するの意に於いては則ち得たり。但だ其の之を賞するには、当に諸を孝子の心に原(もと)づくを可と為すべし。孝子の心は、親を愛するの外他念無し。其の身の艱苦(かんく)すら、且つ甘んじて之を受く。況や敢て名を求めんや。故に金帛粟米の賜、宜しく其の親に厚くして、其の子に薄くすべし。蓋し其の子に薄くするに非ず。其の親に厚くする所以の者は、即ち其の子に厚くする所以なり。親を賞するの辞に曰く、「庭訓、素有り」と。子を賞するの辞に曰く「能く庭訓に従う」と。此の如くなれば則ち孝子の素願足る。〔『言志録』第114条〕

【意訳】
孝行者を賞するのに、金銭や高価な布や穀物などを賜ってこれを表彰する。これは堕落した風俗を改める意味では良いことである。ただ孝子を賞するには、孝子自身の心をよく観察するべきである。孝子の心とは、親への愛敬である。親のためには、いかなる艱難辛苦でも甘んじて受け、名声などを求めたりはしない。よって金銭や高価な布や穀物などは、親に厚く与え、子には薄くするべきである。思うに、それは、実は子に薄くすることにはならない。その親に多く与えることは、すなわちその子に多く与えたことになる。親をほめる言葉として、「家庭教育がよく行き届いている」といい、子をほめる言葉として、「よく家庭教育に従った」という。このようにしたならば、孝子も満足するであろう。

【一日一斎物語的解釈】
親孝行な人というのは、親の愛に包まれて育ち、また本人もその親を愛し尊敬しているものである。したがってそういう人は親のために大変な苦労をすることを厭わず、自分自身の地位や名誉などはそれほど重視しないものである。もし社内にそういう社員さんがいるなら、本人を誉めるよりもその親御さんを誉めてあげるとよい。それはそのまま当の社員さんを悦ばすことになり、より一層仕事に邁進してくれるはずである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長と同行中のようです。

「さっき会ったY社の粟野君って、いまどき珍しい好青年だね」

「彼のキラキラした笑顔は、恐ろしい武器ですよ。病院内の看護師さんの間に彼のファンクラブがあるらしいですから」

「俺の若かりし頃を思い出すな」

「神坂さん、とうとうボケちゃったんですか?」

「ゴン」

「危ないなぁ。運転手に暴力を振るうなんて、自殺行為ですよ!!」

「あの子は、きっと素晴らしいご両親に育てられたんだろうな。お前や俺とは育ちが違うのが一目でわかる」

「あなたと一緒にされるのは心外ですけど、たしかに彼は相当な孝行息子だという評判です」

「きっとご両親が立派な人なので、真っ直ぐに育ったんだろうな」

「いまでも週末はご両親を連れて買い物に行ったり、旅行に行ったりするそうです」

「それは素晴らしいけど、彼女ができたらどうするんだろうな?」

「それが、彼女も一緒に買い物や旅行に行くそうです」

「マジか?! 彼女も相当できた娘なんだろうな。俺のカミさんなら、絶対一緒に旅行なんていかないぜ!」

「それはウチも一緒です。彼は昨年、社内でも売り上げで第3位に入ったらしいんですけど、その時のコメントも『これもすべて両親のお陰です』と言ったそうです」

「出来過ぎていて気持ち悪いな」

「そう思うのは心がねじ曲がっている証拠です!」

「うるせぇな。お前に言われなくたって、俺の性根がひん曲がっていることくらいわかってるよ」

「彼は、両親のことを褒められると本当にうれしそうな顔をするので、ファンクラブの看護師さんたちは、彼ではなくて、彼の両親にプレゼントを贈るらしいですよ」

「同じ世界の話だとは思えないな」

「リアルワールドです!」

「しかし、両親を褒められて悪い気がする奴はいないだろうな。あの雑賀だって、母親をねぎらうと喜ぶからな」

「あいつを動かすときに、よく使わせてもらってます」

「部下を動かすために、心にもないくせに母親を褒めたり労ったりするのか? それの方がよっぽど心がひん曲がっているぞ!!」

「あっ・・・」


ひとりごと

残念ながら現代の家庭においては、親を褒めて悦ぶ子供がどれほどいるのか、ちょっと不安になります。

それは結局、家庭教育というものが疎かにされてきたからなのでしょう。

わが家のことを顧みれば、それは見事に証明されている気がします・・・。


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