今日のことば

原文】
孝名の著わるるは、必ず貧窶(ひんく)・艱難・疾病・変故に由れば、則ち凡そ孝名有る者、率(おおむ)ね不幸の人なり。今若し徒らに厚く孝子に賜いて、親に及ばざれば、則ち孝子たる者に於いて、其の家の不幸を資として以て賞を博(と)り名を徼(もと)むるに幾(ちか)きなり。其の心恐らくは安からざる所有らん。且つ凡そ人の善を称するは、当に必ず其の父兄に本づくべし。此の如くなれば、則ち独り其の孝弟を勧むるのみならずして、併せて以て其の慈友を勧む。一挙にして之を両得すと謂う可し。〔『言志録』第115条〕

【意訳】
親孝行が評判になるのは、必ず貧困・艱難辛苦・病気・変った出来事を経験した者であるので、概ね不幸な人だといえる。もし孝子だけを賞して親を賞しなければ、その家が不幸であることで賞を得たり、名声を求めることになってしまう。それでは孝子の心も休まらない。その人の善行を称えるときは、その父兄に基づくべきであろう。こうすれば、孝子の親に対する敬愛と兄弟に対する親愛だけでなく、親の子に対する慈しみや、兄弟の友愛をも勧めることになる。これこそ一挙両得と言えよう。

【一日一斎物語的解釈】
立派な行ないをする人というのは、概ね子供の時に大変な苦労しており、親孝行な人である場合が多い。そこで、社内において立派な行ないをした社員さんを表彰する場合には、本人だけを表彰するのではなく、そのご両親や兄弟も合わせて表彰するのが良い。そうすれば、ますます親子や兄弟の愛敬は深まり、それが会社においても良い影響を与えるはずである。


今日のストーリー

神坂課長が在籍するJ医療器械では、総務課の大竹課長の発案で、毎年1名の社員さんとその家族を表彰する制度を導入しています。

今年も2021年度の候補者選びの時期が来たようです。

ランチに出掛けた神坂課長と大竹課長もその話題が中止となっているようです。

「タケさん、雑賀の交通事故を機に発案されたこの制度も、もう3年目を迎えたんですね」

「僕の想像した以上にご家族の皆さんが喜んでくれるので、企画した者としては、本当にうれしい限りだよ」

「この企画は、平社長も大絶賛していましたからね」

「はじめて褒められたよ。(笑)」

「あの人は滅多に褒めてくれない人ですから。それにしても、自分の息子や旦那、あるいは親が会社で表彰されるというのは、思った以上に名誉なことなんですね」

「そろそろマネージャーを表彰しても良いかもね。今年は神坂君にしようか?」

「俺の何を評価するんですか? 課としての数字も達成できていないし、みんなの視線に耐えられませんよ!」

「そんなヤワな男じゃないだろう!」

「第一、ウチは表彰するから来いといっても、嫌だと断りかねないですからね」

「日頃の夫婦仲が問われるわけだ!」

「そういうことになりますね・・・。さて、営業2課からは誰を選ぼうかな」

「マネージャーの視点も問われるよ!」

「2年連続表彰はしないことになっているんですよね?」

「まぁ、それは暗黙の了解だけどね。なるべく多くのご家族に喜んでもらいたいからさ」

「石崎は今期も大口商談を獲得しているので、あいつにしてやりたいんだけどなぁ。あいつはああ見えて親孝行な奴ですからね」

「昨年、彼のご両親は本当に喜んでくれていたね。その喜ぶご両親を見て自慢気でもあり、ちょっと涙ぐんでいた石崎君の顔は今でも忘れないよ」

「俺も家族と一緒に喜ぶメンバーの顔がみれるあの瞬間は本当に楽しみなんですよね。事前に本人に内緒で家族を呼ぶというのが、なかなか難しいんですけどね」

「サプライズはあまり好きではないけど、やはりこの企画だけは、当日になってから本人に表彰されること知ってもらいたい。そして、そこに家族登場という演出は最高だからね!」

「今年は誰が選ばれるんだろうなぁ。楽しみですね!!」


ひとりごと

この章句を初めて読んだ時、こんな会社があったら良いなと思ってストーリーを書きました。

もし社員さんを家族だと考えるなら、その家族もまた会社の家族です。

だからこそ、家族ぐるみで表彰できる制度を創りたい。

これは未だ夢のままですが、いつか実現できる日を信じて動き続けてみようと思っています。


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