今日のことば

原文】
上古の時、人君無く、百官有司無し。人各おの其の力に食(は)み、以て生を為す。殆ど禽獣と等しきのみ。是の時に当り、強は弱を陵(しの)ぎ、衆は寡を暴(あら)し、其の生を遂ぐるを得ざる者有り。其の間、才徳の衆に出づる者有れば、則ち人必ず来り控(つ)ぐるに情を以てして宰断を請う者有り。是に於いて往きて為に之を理解す。強き者、衆(おお)き者、其の直に屈して、而も其の義に服し、敢えて復た暴(りょうぼう)せず。弱き者、寡き者、因りて以て其の生を遂ぐるを得たり。此の如き者漸く多く、遂には群然として来り控げ、自ら其の力に食む能わざるに至れば、勢之を拒絶せざるを得ず。是に於いて衆必ずあい議して曰く、「是の人微(な)かりせば患復た作(おこ)らん。盍(なん)ぞ各おの衣食を出し以て之に給し、是の人をして復た力に食むの労無からしめざる。則ち必ず能く我が為に専ら之に任ずることを肯(がえ)んぜん」と。衆議乃ち諧(ととの)う。是を以て再び請いしに、才徳の者果たして之を諾せり。是れ則ち君長の始にして、而も貢賦(こうふ)の由りて起る所なり。是の如き者、彼此之有り。其の間、又才徳の大いに衆に卓越する者有らば、次の者も亦皆来りて命を聴き、推して之を上げ、第一等才徳の者を以て諸を第一等の地位に置く。乃ち億兆の君師是れなり。孟子の謂わゆる、「兵民に得て天子と為る」と。意も亦此れと類す。〔『言志録』第117条〕


【意訳】
古代においては、君主も官僚も役人も無かった。人は各々独自の力で生活していた。これは禽獣に等しいレベルである。当時は強者が弱者を押さえ、多数の者が少数の者を荒らしたために、生活ができない者もあった。そこに才徳兼備の者が現れると、民衆はその人を頼り、情に訴えて、裁きを依頼するようになった。そこで才徳ある者が行って、強者や多数者を説得し、その義によって、再び悪さをしなくなった。これによって弱者や少数者も生活ができるようになったのである。こうして弱者や少数者が群がって訴えるようになり、才徳者が生活できなくなってしまった。そこで民衆は「才徳ある人が居なくなれば、再び禍が起るだろうから、各々で衣食を出し合ってその人に貢ぎ、自らの力で生活する労を無くそう。そうすれば我々の為に裁いてくれることを承諾するであろう」ということになった。意見が一致して、再度要請をしたところ、才徳者はこれを受け容れた。これが君主の始めであり、租税の由来である。こうして各地に才徳者が出たが、その中でも更に立派な者が他の才徳者によって推し上げられ、最も優れた者が第一等の地位を得ることとなった。これが万民の君である。孟子が「田舎者でも徳があれば、天下を獲ることができる」といったが、この意味も同類のものであろう。


【一日一斎物語的解釈】
企業のトップは才徳兼備の人物の中でも特に周囲の人から担ぎ上げられるような第一等の人物が就任すべきであって、その出自などは問うべきではないのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、興奮気味にネットニュースを見ているようです。

「マジか?! 中田翔が我がジャイアンツにやって来るのか!」

「大丈夫ですかね? 彼はパワハラ常習犯ですよ」

そばに居た新美課長が反応したようです。

「そうかも知れないが、彼は後輩の面倒見がよいことでも知られているんだ。だいたい、面倒見の良い人というのは時に厳しく、カッとすると手を出すような人が多いもんだ」

「昔はそれでも許されましたが、今は駄目ですよ」

「そう。だから、生きにくい世の中だって言うんだよ」

「日本ハムが無償で放出するというのは、相当のことですよね。やはり、彼をこのままで終らせたくないという球団の温情を感じますね」

「それだけ彼は愛されている選手でもあるんだよ」

「結局、彼のような暴れ馬を御せるリーダーは、原さんしか居ないということになったんでしょうね?」

「巨人という伝統ある球団、そして名将・原辰徳。この組み合わせ無くして実現しなかったことだろうな」

「たしかに今、12球団の監督を見渡してみて、才徳兼備の名将と呼べるのは原さんくらいかも知れませんね」

「ネットの反応も、もちろん賛否両論あるけど、概ね巨人の原監督の下でしか、中田は再生できないだろうという論調が多いな」

「高橋監督が三年連続で優勝を逃して、翌年はなんとしても優勝させなければならないとなった時に、原さんしかいないということで決まった監督ですし、実際に1年目から優勝させている。今や球界ナンバーワンの名将と言って良いのでしょうね」

「その原監督なら、中田を再生させてくれるんじゃないか、という期待が持てるもんな。過ちは誰にでもある、でも真摯に反省したならチャンスを与えてあげたいよな」

「それにしても凄い戦力を無償で手に入れましたね、ジャイアンツは!」

「しかし、あの清原ですら巨人という球団のユニフォームを着ることで、かなり葛藤した。中田は、ああ見えて精神的にはそれほどタフな選手ではない気がするから、これからも相当苦労はするだろうな」

「『中田の過去も現在も未来もすべて共有する覚悟で受け容れると原監督が言ったそうです。男気を感じますね」

「男気なら負けない中田翔のことだ、きっとやってくれるだろう!!」

「球界の宝ですから、ぜひ復活してもらいたいですね」

「これで虎の尻尾は捕まえたも同然だ。中田の復活とジャイアンツのV3、そしてコロナ収束を祝って、忘年会の頃には大いに飲みたいな!」

「いや、私はドラゴンズファンなんですけど・・・」


ひとりごと

今回の章句からストーリーを紡ぎ出すのは至難の業です。

そこで、超訳を試みます。

リーダーは才色兼備を兼ね備えた第一等の人物であるべき、との一斎先生の言葉から、小生が頭に浮かべたのは、名将・原辰徳でした。

折しも中田翔の電撃トレードというニュースも入ってきましたので、読売ジャイアンツの原監督を称えるストーリーとさせて頂くと共に、中田選手へのエールとさせて頂きます。


hara kantoku







読売巨人軍公式サイトより