今日のことば

原文】
茫茫たる宇宙、此の道只だ是れ一貫す。人より之を視れば、中国有り夷狄(いてき)有り。天より之を視れば、中国無く、夷狄無し。中国に秉彜(へいい)の性有り。夷狄にも亦秉彜の性有り。中国に惻隠・羞悪・辞譲・是非の情有り。夷狄にも亦惻隠・羞悪・辞譲・是非の情有り。中国に父子・君臣・夫婦・長幼・朋友の倫有り。夷狄にも亦父子・君臣・夫婦・長幼・朋友の倫有り。天い寧(いずく)んぞ其の間に厚薄愛憎有らんや。此の道の只だ是れ一貫なる所以なり。但だ漢土の古聖人の此の道を発揮する者、独り先にして又独り精なり。故に其の言語文字、以て人心を興起するに足る。而れども其の実、則ち道は人心に在りて、言語文字の能く尽くす所に非ず。若し道は独り漢土の文字に在りと謂わば、則ち試(こころみ)に之を思え。六合(りくごう)の内、同文の域、凡そ幾ばくか有る。而も猶お治乱有り。其の余の横文の俗も、亦能く其の性を性として、足らざる所無く、其の倫を倫として、具(そな)ざる所無し。以て其の生を養い、以て其の死を送る。然らば則ち道豈に独り漢土の文字のみに在らんや。天果たして厚薄愛憎の殊なる有りと云わんや。〔『言志録』第131条〕

【意訳】
広大な宇宙には一貫した道が通っている。人間側から見れば、支那があり、また野蛮人の国もあるが、天からみればそんな区別はない。支那にも野蛮国にも道徳を守る習慣がある。支那にも野蛮国にも四端があり、五倫がある。天はそれらへ等しく愛情を注ぐ。天の道が一貫している証拠である。ただ、支那の古人がこの道を説くことが、他より早く、また詳しいだけのことである。このため支那の言葉や文字は人の心を奮い立たせる。しかしその道は人の心に在るのであって、言葉や文字にあるわけではない。それが支那にしかないというなら、以下のことを想像してみよ。世界中に支那と同じ言葉を使う国はいくつもあるだろうが、それでも乱れた国がある。また横文字の国であっても道徳性を身に着け、五倫を具えており、それによって生を全うし、死を迎えている。そう考えれば、天の道は支那にだけあるのではない。道は世界中に在り、天はまったく差別をしていないのだ。

【一日一斎物語的解釈】
人の徳性には生まれつきの差別などない。生まれた国や家柄によって差があるわけでもない。天はすべての人間に平等である。ビジネスにおいても同様である。役職や地位によって人間の徳性に優劣があるわけではない。そのことをよく理解して人の上に立つ者はマネジメントをするべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋にいるようです。

「先日、書類を整理していたら、こんなものが出てきました」

「古い手帳かな?」

「そうです。これは私が課長になった年の手帳です」

「では、今から5~6年くらい前のものだね」

「はい。その手帳の最初のページをみてください」

「『人の徳性には生まれつきの差別などない。生まれた国や家柄によって差があるわけでもない。天はすべての人間に平等である。ビジネスにおいても同様である。役職や地位によって人間の徳性に優劣があるわけではない。そのことをよく理解して、課長職にある者はマネジメントをするべきだ』。と書いてある。これは『言志四録』の言葉だね

「はい。これは4月1日に辞令を手渡されたときに、佐藤部長に言われた言葉です」

「あー、そうだったかな?」

「凄い言葉だなと思いました。そして、この日に私は、佐藤一斎という人をはじめて知りました」

「この言葉を贈ったことは、あまり覚えていないけど、あの日のことは鮮明に覚えているよ。神坂君のことでは、悩んで悩んで悩み抜いた。そして、神坂君がマネージャーになった。あれほど感慨深い一日は、他に記憶がないからね」

「私もこれからどうすれば良いのか、正直に言って、途方に暮れていました。しかし、せっかく私のような人間を課長に選んでくれた佐藤部長や平社長になんとしても恩返しはしたい。その思いしかありませんでした」

「とにかく部下のことを自分の子供のように考えて、一緒に成長して欲しいと思っていた。それで、その言葉を選んだんだと思う」

「はい。この言葉はとても大きなヒントになりました。そうか、自分は別に偉くなったのではない。営業2課という船の船頭に選ばれただけなんだ。だから、みんなで力を合わせて船を進めていけばいいんだな、と自分の役割が腹に落ちたんです」

「そして、その後の神坂君は本当にマネージャーとして努力をした。今では立派なリーダーに成長したね」

「ありがとうございます。本当にウチのメンバーは、尊敬できる愛すべき連中ですからね。彼らに助けられました」

「一緒に成長してきたんだよ!」

「これからもみんなのため、会社のため、お客様のため、世の中のために少しでもお役に立てるよう精進していきます」

「その手帳はどうするの?」

「これは私の宝物であり、お守りです。つねに鞄の中に入れておきます」

「でも、書類の山から見つかったんだよね。(笑)」

「それは言わないでください。今日からは肌身離さず大切にしますから!!」


ひとりごと

福沢諭吉は、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言っています。

役職が上になったからといって、偉くなったわけではないのです。

役割上、上下関係があり、その役目を果たすことを任されただけのことです。

実は小生、9月1日より支店長を拝命しました。

この気持ちを忘れることなく、支店メンバー皆一緒に成長できる組織作りに邁進する所存です。


fukuzawa_yukichi