今日のことば

原文】
妄念を起さざるは是れ敬にして、妄念起らざるは是れ誠なり。〔『言志録』第154条〕

【意訳】
心に敬の念があればみだらな考えは起さなくなるが、誠があればそもそも心にみだらな考えが生まれることすらない

【一日一斎物語解釈
慎み敬う心があれば、迷いを抑え込むことができる。だが誠を心に抱けば、迷いすら生じなくなるのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。

「四十にして惑わず、って『論語』にありますよね。私もすでに四十歳を超えましたが、未だに迷ってばかりです」

「ははは。良いんじゃないの。そもそもその言葉は、四十歳になると同時に迷わなくなったと読むよりは、四十代にして迷わなくなった、と読んだ方がいいだろうからね」

「あー、そういうことなら、まだかなり時間もありそうです」

「ほら、そうやって余裕を持つとあっという間に五十代がやってきてしまうよ!」

「たしかにそうですね。迷いについて、一斎先生の言葉は何かありますか?」

「あるよ。『妄念を起さざるは是れ敬にして、妄念起らざるは是れ誠なり』。つまり、慎み敬う心があれば、迷いを抑え込むことができる。だが誠を心に抱けば、迷いすら生じなくなるという意味だね」

「やはり『誠』がキーワードなんですね」

『誠』という徳目は、儒家にとって最も大事な徳目だとも言えるだろうからね。まず自分を偽らないこと、その上で他人に嘘をつかないこと。これが誠の定義だね」

「はい」

「自分を偽らないとは、自分の心に素直に生きること。すべての見栄やプライドをかなぐり捨てた真心があれば、他人を偽ることもない。そうなれば、迷いすら生じることがない」

「何をすべきかについては、実は自分自身で答えを持っているはずです。ところが欲とか見栄がその決断を鈍らせるから、自分に正直になれない」

「そのとおりだと思うよ」

「たしかに、まだまだ我欲から脱却しきれていません」

「だからこそ、まずは他人を敬う心、自らを慎む心を大切にしながら、我欲を抑え込むことが先決だと一斎先生は教えてくれているんだよ」

「はい。私の若い頃は、他人を尊敬する気持ちがまったくありませんでした。それでいて自分は凄い男なんだと何の根拠もないまま思い込んでいました」

「手を焼いた頃が鮮明に蘇ってくるねぇ」

「恥ずかしい過去ですが、戒めとするためにも時々こうして思い出して、自分を律しています」

「良い事だとは思うよ。でもね」

「なんですか?」

「できれば私が居ないところで思い出して欲しいなぁ」

「そんなに悪夢のような出来事だったんですか?」

「うん、悪夢なら夢だからまだ良いよ。あれは私の目の前に現実の出来事として起こったことだから・・・」

「以後、気をつけます・・・」


ひとりごと

小生も儒学を学ぶ過程で、この誠という概念と格闘してきました。

そして、今現在の自分なりの定義が、

誠 = 忠 + 信 

ということになります。

己を偽らない真っ直ぐな心をもって他人との約束を守ること、と言い換えてもいいでしょう。


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