今日のことば

原文】
耳目手足は、都(すべ)て神帥(ひき)いて気従い、気導きて体動くを要す。〔『言志録』第162条〕

【意訳】
人間の耳や目といった器官や手足などは、みな精神が率いて、それに気が従う。次いでその気が導いて身体を動かすことを可能にするのである。

【一日一斎物語的解釈】
人間が五感を働かせたり手足を動かすのは、心の指示に従っているのである。しかし、普段はそれを実感していない。仕事においても、メンバーが動くのはリーダーの指示によるのであるが、メンバー自身は自分の意志で動いていると感じるようなマネジメントをすることが理想である。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、緊急事態宣言が明けたので、佐藤部長と一緒に「季節の料理ちさと」に来たようです。

「ママ、ようやくだね!」

「うん、でもお酒を出せるのは20:00までだけどね」

「20:00なら仕事を終えてこうしてやってきても酒が飲めるからありがたいよ」

二人は生ビールを注文したようです。

「しかし、人間の身体って不思議ですよね? こうやってビールを飲むのには、手がジョッキを握って口元まで運び、口を開けてジョッキを傾けるとビールが喉に流し込まれます。これって手と口とが見事に連動しているじゃないですか」

「ははは、そうだね」

「でも手と口は勝手に動いているわけではなく、その動きを司っているのは脳です」

「しかも、その脳に指示を与えているのは、心だよね」

「その心というのが不思議です。人間が死んで解剖されたとしても、心というものは実体がないじゃないですか」

「形のないものが、形あるものを動かしているんだよね」

「私の馬鹿な頭では、なにがどうすればそうなるのか、さっぱりわかりません」

「しかし、リーダーがメンバーを動かすのも、形のない徳というものだよね」

「あぁ、なるほど。形のない徳目が人を動かすのか!」

「誠とか、仁とかいうものは、形はない。形はないけれどたしかに存在する。存在するからこそ、人はそれに動かされるわけだからね」

「結局、見えないものが見えるものを動かすんですね。しっかり、徳を身につけないと!」

「二人とも、せっかくウチに来たのに難しい話をしてるわね」

「あ、ママには高尚過ぎたかな?」

「あのね、あなたよりはかなり勉強ができると自負してますけど!」

「いいねぇ、ママの怒った顔は可愛いよね。いくつになっても」

「神坂! 最後の言葉は余計でしょ!」

「部長、考えてみたら、言葉というのも形無きものですね。それがこうやって、一人のおばさんを怒らせるんですから不思議です。(笑)」

「神坂!!」


ひとりごと

人間の器官を動かすものは、脳であり、その脳に指示を与えているのは心です。

しかし、心とは実体のないものです。

それが諸器官を見事に連動させている。

人体ほど不思議なものはないですね。


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