今日のことば
【原文】
其の言を儒にして其の行を儒にせざれば則ち其の言や、秖(まさ)に躬自ら謗るなり。〔『言志録』第168条〕
【意訳】
発する言葉は儒者の言葉であるのに、行いが儒者のようでなければ、その言葉はまるで自分の身を謗(そし)っているようなものである。
【一日一斎物語的解釈】
発する言葉と実際の行動とが一致しない人は、自分の言葉で自分を非難しているようなものである。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋に居るようです。
「先日、O社の新しい支店長さんとお会いしてきました」
「實森(さねもり)さんだったね」
「はい、以前にもこちらを担当していた人です」
「私も近いうちにご挨拶に行かないとね」
「その時はご一緒します。で、その實森さんが面白いことを言っていましてね。O社さんでは、有言実行タイプが一番評価されるのはもちろんなのですが、次に評価されるのが、有言不実行のタイプだというんです」
「不言実行タイプではないんだね?」
「はい。しっかりと主張できる人でないと偉くなれない会社だと言っていました」
「たしかに、コツコツやる人が報われないこともあるだろうけど、ちょっと残念だねぇ」
「全然実行しないということではなく、大きなことを言って、結果的にそこまでの成果を出せなくても、それなりの成果を上げる人だという意味のようですけどね」
「なるほど、それなら理解できるね」
「はい」
「その話を聞いて思い出した言葉があるよ。最澄という人は知っているよね?」
「あー、比叡山の!」
「そう。その最澄の『山家学生式(さんげがくしょうしき)』という文章の中に、こんなことが書かれているんだ。よく言うことができてもよく実行できない人は国の師である。よく行なうことはできるがよく言えない人は国の用である。そして、よく言いよく行なうことが出来る人が国の宝だと」
「なるほど。つまり有言実行タイプは、会社の宝。有言不実行タイプは人の上に立つ人。不言実行タイプは会社に有用な人材だということですね」
「うん。そして、よく言うこともよく行なうことも出来ない人はね」
「なんでしょう?」
「国の賊だと言っているんだ」
「ひゃー、厳しい言葉ですね。会社の賊だと呼ばれないようにしっかり精進しないと!」
「ちなみに一斎先生は、そういうタイプは、自分で自分を謗っているようなものだ、と言っている」
「それも厳しい! しかし、たしかにそうだと思いますね」
「神坂君は当初は会社の用だったけど、今では宝になりつつあるね」
「それは最高の誉め言葉ですが、調子に乗らないためにも、その言葉を忘れることにします!!」
ひとりごと
先日、比叡山を訪れた際に『山家学生式』に触れる機会がありました。
「一隅を照らす」という言葉は有名ですが、この度は上に書いたような国の宝と賊のフレーズに心惹かれました。
有言不実行タイプは、リーダー向きであり、用い方次第では十分に会社の戦力になり得るのだと知りました。
やはり高僧の言葉にも深い真理が宿っているのですね。