今日のことば

原文】
泰西の説、已に漸く盛んなるの機有り。其の謂わゆる窮理は以て人を驚すに足る。昔者(むかしは)程子、仏氏の理に近きを以て害と為す。而るに今洋説の理に近き、仏氏より甚だし。且つ其の出す所奇抜淫巧にして、人の奢侈を導き、人をして駸駸然(しんしんぜん)として其の中に入るを覚えざらしむ。学者正に亦淫声美色を以て之を待つべし。〔『言志録』第169条〕

【意訳】
西洋の学説は次第に流入し盛んになってきている。その論説は人を驚かせるには充分なものである。かつて宋の儒者である程子(程明道と程伊川の兄弟)は、仏教の説は理に近いために有害であるとした。ところが昨今の西洋の学説は、仏教以上に理に近い。またそれは常識外れかつ淫らなもので、人を贅沢にさせ、いつの間にかその中にどんどんと入り込ませてしまう。学問をする者は、西洋の学説に対しては、美しい声をした美女だと捉えて対応すべきだ。

【一日一斎物語的解釈】
ビジネスのトレンドは西洋発信であることがほとんどであり、特に米国発で日本に輸入される思想は数知れない。すでにグローバル化しているビジネスの潮流の中では、これはやむを得ないことではあるが、日本人としてのアイデンティティを見失うことなく、我が国に導入する際の障壁などをしっかりと考慮に入れて導入すべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大竹課長と久しぶりに一杯やっているようです。

「インサイド・セールス、マーケティング・オートメーション(MA)、SFAなどなど、営業の世界も横文字に制覇されつつあるねぇ」

「そうなんですよ。それに輪をかけたのが、COVID-19です。一気に非対面の営業ということが本格化してきましたからね」

「我々ディーラーとしては、由々しき事態だよね」

「なぜですか?」

「だって、メーカーさんが直接顧客と繋がることができる訳だろ? そうすれば、ディーラーはお払い箱じゃないか」

「たしかに、そうですね」

「実はウチも川井さんの指示でMAの導入を検討したんだけど、時期尚早ということで一旦保留になったんだよね」

「そうだったんですか」

「やはりディーラーがMAを導入するメリットが打ち出しにくいんだよ」

「日本の商習慣というのは独特ですからね。それに日本人らしさを失うような商売はしたくありませんしね」

「そういえば、佐藤一斎の弟子だった佐久間象山は、『東洋道徳・西洋芸』という言葉を残しているよね」

「どういう意味ですか?」

「西洋は理には長けている。当時の大砲の技術や造船の技術は、日本には想像もつかないほど優れていた。しかし、思想や道徳という面では、西洋よりも東洋の方が優れているのだから、そんなものまで西洋のものを輸入する必要はない、という意味だよ」

「さすがは一斎先生のお弟子さんですね。そのことばはそのまま営業にも当てはまります。営業の技術については西洋の方が常に一歩先を進んでいますが、日本に脈々と流れている商売の気質まで失ってしまってはいけない、と理解することができます」

「そのとおり。明治維新直後の日本は、なんでもかんでも西洋のモノを導入して、日本古来の古き良きものをたくさん失ってしまった」

「同じことを繰り返したくないですね」

「近江商人の商売十訓や大丸の家訓なんかは時代を超えて、今も日本の商人のDNAに受け継がれているはずだからね」

「はい、『買い手よし、売り手よし、世間よしの『三方よしの考え方は、私の商売のベースになっています」

「うん。上手に西洋と東洋をブレンドしたいね」

「タケさん、せっかくなら、『ブレンド』みたいなカタカナではなく、日本の言葉で締めてくださいよ」

「じゃあ、西洋と東洋のミックス。あれ、これも横文字だ。ぴったりの日本語が見つからないなぁ」

「タケさんもいつの間にか、西洋の思想にどっぷり浸かってしまったようですね。西洋と東洋の融合でどうですか?」

「ちょっとカタい感じはするけど、その言葉くらいしかないか。我々が使う言葉も、もう少し日本語を大事にした方が良さそうだね!」


ひとりごと

佐久間象山が言った、「西洋は技術に勝れ、東洋は道徳に勝れる」という考え方は、現在も生きているのかも知れません。

どちらが優れているかは置いておくとしても、やはり日本人には日本古来の思想や道徳があり、闇雲に捨て去るべきではないでしょう。

そして、東洋道徳を学ぶ上では、『論語』や『言志四録』などの古典が最適なことは言うまでもありません。


senkan