原文】
吾れ俯仰して之を観察すれば、 日月は昭然として明を掲げ、 星辰は燦然として文を列し、 春風は和燠(わいく)にして化を宣べ、 雨露は膏沢して物に洽(あまね)く、 霜雪は気凛然として粛に、 雷霆は威嚇然として震い、 山岳は安静にして遷らず、 河海は弘量にして能く納れ、 谿壑(けいがく)は深くして測る可からず。 原野は広くして隠す所無く、 而も元気は生生して息まず。 其の間に斡旋す。 凡そ此れ皆天地の一大政事にして、 謂わゆる天道の至教なり。 風雨霜露も教に非ざる無き者、 人君最も宜しく此れを体すべし。〔『言志録』第171条〕

【意訳】
俯仰して観察してみると、日月は明るく照らし、星は燦然として輝き、春の風は万物を化育し、雨露は万物を潤し、霜や雪は凛として厳しく、雷は威嚇するかのように奮い、山岳はどっしりとして動かず、河川や海は広大にして物を受け容れ、渓谷は深くして測り尽せず、原野は広く隠す所がなく、天地の気は活き活きとしてそれらを結び付けている。これはすべて天地の大きな政事であって、天の道の至大なる教えである、風雨や霜や露もすべて教えでないものはなく、人君たる者は、このことを正しく体得しなければならない

【一日一斎物語的解釈】
太陽・月・星、風・雨・露、雷、山岳・河川・渓谷・原野、これらはそれぞれが個性と自身の役割を果たしながら、天地がそれを束ね、すべてが一体となってこの地球をつくりあげている。リーダーは天地を観察し、これをマネジメントに応用しなければならない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、新美課長とランチ中のようです。

「大自然ってすごいと思わないか?」

「いきなり何ですか?」

「だってさ、どれだけ人間が万物の霊長だと言っても、結局は自然の力には勝てないわけだろ?」

「それはそうですけど」

「太陽の恵みがなければ生物、特に植物は生きられないし、雨もそうだよな。でも、雨だけでは万物を養えないから、海や川や湖がある」

「そうですね。そして、そこにもその水がないと生きられない生き物がいます」

「うん。もし人間が自分勝手に自然をコントロールしようとすれば、怒って災害を起こすわけだ」

「まるで、上司に叱られているみたいですね」

「それだよ!」

「え?」

「大自然というのは、太陽や月、風や雨といった個性的なキャラクターをようにさりげなく、そして見事にマネジメントしているんだよ。俺たちリーダーもそれを見習う必要があるんじゃないかと思ってな」

「なるほど。しかし、デカい話ですね」

「ひとり一人が強い個性を発揮しつつ、見事に連動する。それはすべて大自然、あるいはそれを司る何物かがマネジメントしているんだよな」

「つまり、各自の個性をしっかりと伸ばしつつ、誰かが突出して全体の輪を乱すことのないようにマネジメントするのが、我々の役割だということですね?」

「そう、そう思わないか?」

「はい、その点には異論はございません。ただ」

「何だよ?」

「なぜ、急にそんな話をしたのかが意味不明です。かつ丼を前にして」

「実はさ、さっき古い書類を整理していたら、佐藤部長からの手紙が出て来たんだ」

「どんな内容ですか?」

「ちょうど前の課長から佐藤さんが課を引き継いだ後で、その前の課長が俺のことを雷か台風みたいなとんでもない奴だと言っていたと。しかし、私は雷や台風にもそれを発生させた大自然の意図があると思っている。だから、神坂君と真摯に向き合って、いつかはおだやかな風に変えてみたいと思っている。そんな内容だった」

「なるほど。しかし、まだおだやかな風とはいかないような・・・」

「うるせぇな、わかってるよ! でも、雷や台風ほどには人から嫌われない存在になれたんじゃないか?」

「それは間違いありませんよ」

「それもこれも大自然のような佐藤部長のマネジメントのお陰なんだよ。トップセールスを獲ることもできたし、こうしてマネージャーにもなれたんだからな」

「それを次世代に引き継いで行こう、という訳ですね?」

「うん。恩返しは二人の間で完結してしまう。それよりも恩送りをした方が、ずっとつながっていくだろ?」

「そうですね。私も意識しますよ!」


ひとりごと

大自然の恵みがなければ、人間は生きていけません。

しかし、時には大自然の猛威に晒され、命を落とすこともあります。

それは、人間という大自然の一部でしかないパーツが、あまりにも身勝手に行動したときに発生します。

人間は、人間としてどう大自然と関わっていくかを真剣に考えつつ、人間にとって住みやすい環境を作っていかなければならないのでしょう。

そして、マネジメントにおいても、リーダーは各々のメンバーの個性を最大限に伸ばしながら、全体の調和を保つことを意識すべきですし、メンバーはメンバーで、チームの輪を常に意識すべきなのだ、と拡大解釈しておきます。


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