今日のことば

原文】
吾れ古今の人主を観るに、志の文治に存する者は必ず業を創(はじ)め、武備を忘れざる者は能く成を守る。〔『言志録』第173条〕

【意訳】
古今の人君を観察してみると、学問をもって治めようと志す者は国を創生し、戦の備えを怠らない者は国を守り抜いている。

【一日一斎物語的解釈】
学問を積んだ実務派が企業を創業し、常に準備を怠らない行動派が企業を守り育てるものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長、新美課長と雑談をしているようです。

「神坂さん、大累さん、お二人は会社を創業するのと、維持し守っていくのとではどっちが大変だと思いますか?」

「やっぱり創業じゃないか? 会社を起こすというのは覚悟もいるし、勇気もいるし、勝算もなければいけないわけだから、できた会社を守るより、よっぽど大変だと思うけどなぁ」

「神坂さんは?」

「俺は、守る方じゃないかと思うな。日本では起業して10年以内に約30%近くの会社が倒産しているらしいんだ。それだけ会社を続けるということは難しいってことだろ」

「なるほど。大累さんが感覚的なのに対して、神坂さんはエビデンスで答えるあたりは流石ですね」

「悪かったな、どうせ俺は勢いだけの男だよ」

「そうは言ってないじゃないですか!」

「じゃあ、やはり守る方が難しいというのが答えなのか?」

「実はこれ、『貞観政要』という古典に載っている有名な問答なんです。『創業と守成、いずれか難き』という唐の皇帝・太宗の質問で始まるんですけどね

「あぁ、『貞観政要』か。よく名前は聞くんだけど、未だに読んだことがないんだよな。それで、その答えは?

「その質問に、房玄齢という建国に力を尽くした重臣は、命を懸け、敵を倒して勝ち取るのが建国ですから、当然創業だと答えるんです。ところがもう一人の重臣の魏徴は、国ができるとトップは慢心して、それまで我慢してきたことが我慢できなくなる。だから、守成の方が難しいと答えて真っ向から対立するんです」

「まるで俺と大累みたいだな」

「はい。そこでその殿様、太宗李世民という人なんですが、こう言うんです。たしかに二人の意見はどちらも正しい。しかし、今は既に国は創られた。これからはいかにこの治世を継続するかが重要だ。だから二人力を合わせて私をサポートして欲しい、と」

「よ、大岡裁き!」

「結論を出さずに、論点をすり替えているとも言えそうですが、見事な落とし方ですよね」

「しかし、長く続けばほころびも出てくる。そういう時に国や企業には中興の祖と呼ばれる人が現れるよな。立て直しというのは、創業を得意とする人材でなければできないだろうな」

「そうですね。結局は、攻めが得意な人と守りが得意な人がいて、どちらも重要だということですね」

「要するにいろいろな能力をもった人材がお互いに自分の強みを発揮して貢献することが大事なんだな」

「そういう意味じゃ、俺たち3人も絶妙なバランスで助け合っているのかもな」

「集まるべくして集まった仲間だということですね。じゃあ、そろそろ3人で夜の街に繰り出しますか?」

「緊急事態宣言も明けたからな!」


ひとりごと

攻めを得意とする人もいれば、守りを固めるのが得意な人もいる。

どちらかの人材だけしかいなければ、国や会社は長続きしないでしょう。

だからこそ多様性のある人材の確保こそが企業存続の道なのです。

みんな違って、みんな良いのです。


taiso riseimin




















太宗(唐)(故宮博物院蔵) ©Public Domain