今日のことば

原文】
方は類を以て聚(あつま)り、物は群を以て分(わか)る。人君は国を以て党を為す者なり。苟くも然る能わざれば、下各おのの自ら相い党せん。是れ必然の理なり。故に下に朋党有るは、君道の衰なり。乱の兆なり。〔『言志録』第176条〕

【意訳】
善い方向に向かう者は善い者同士集まり、悪い方向に向かう者は悪い者で集まる。すべて善い者は善い者ばかり、悪い者は悪い者ばかり、群をなして分かれる。君主は国民をひとつにまとめている。かりにもそのように出来なければ、民は勝手気ままに徒党を組むようになることは、当然の理であろう。つまりは民が党派を組んでいるようでは、君主の道が衰え、国が乱れる前兆であるといえよう。

【一日一斎物語的解釈】
人間は同じ傾向をもった者同士で徒党を組みやすい。経営トップは組織をひとつにまとめるべきであるが、下にいくつもの派閥が出来ているようでは、経営は首尾よくいかず、企業は衰退の道を辿ることになる。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大累課長とランチに出掛けたようです。

「しかし、政治の世界というのは、結局派閥の争いなんだな」

「そうみたいですね。でも、政治だけでなく、大手企業も同じみたいですよ」

「あぁ、Y社か?」

「はい。今、Y社は会長派と社長派に分かれて血みどろの抗争を繰り広げているらしいですから」

「ヤクザ組織みたいな言い方をするな。一応、あそこは医療機器屋だぜ」

「そうですけど、何人もの管理職が首を切られていますからね。企業でクビを言い渡されるのは、死に等しいじゃないですか」

「そんなことはないと思うけどな。人間、生きていくだけなら、なんとでもなるんじゃないか?」

「相変わらず神坂さんは呑気ですね」

「悪かったな!」

「この状態が続くと、さすがのY社も存続の危機に陥るんじゃないかという噂がまことしやかに流れていますね」

「Y社が倒れたら、この地域の業界地図は一気に変わるなぁ」

「粛々と準備だけは怠らないようにしておきましょう!」

「しかし、対岸の火事だと思わずに、自分に矢印を向ける必要もあるんじゃないか?」

「ウチは派閥なんて皆無じゃないですか」

「そうか? 営業部は佐藤部長、総務部は西村部長が仕切っている。佐藤派と西村派の対立なんてのが起こるかもよ」

「あの二人、めちゃ仲が良いじゃないですか。絶対ないですよ!」

「確かにそうだな。俺はその二人とよく旅にも行っているしな」

「それより、神坂さんの営業2課は大丈夫ですか? 山田派と本田派に分かれているとか?」

「ない、ない。ウチはみんな仲が良いよ。何て言ったって、課長が人格者だからな」

「・・・」

「なんだよ、何か言えよ!」

「たしかに、自分の下で派閥争いをしているような組織は長続きしないでしょうけど、まったく自分を理解していないトップの率いる組織もかなりヤバイんじゃないですかね」

「そのとりだ大累。お前はそういう傾向があるから気をつけろよ!」

「ダメだこりゃ・・・」


ひとりごと

孔子の弟子は三千人居たと言われます。

その弟子たちは孔子の下に平等で、派閥争いをするようなことはまったくありませんでした。

三人の高弟、顔回、子路、子貢はともに仲が良かったことが、『論語』を読むと理解できます。

ところが、孔子の死後、子夏、子張、子游、曽子といった弟子たちは、互いに自分こそが孔子の教えを継ぐものだと言い合い、派閥が生まれます。

儒学者然りですから、一般の組織においては、派閥が生まれやすいのも当然です。

上に立つ人は、そのことをよく理解して、人格の陶冶に勤しむべきでしょう。


habatsu