今日のことば

原文】
人情の気機は、一定を以て求む可からず。之を誘いて勧め、之を禁じて遏(とど)むるは順なり。之を導いて反って阻(そ)し、之を抑えて益(ますます)揚るは逆なり。是の故に賀馭(がぎょ)の道は、当に其の向背(こうはい)を察し、其の軽重を審(つまびらか)にし、勢いに因りて之を利導し、機に応じて之を激励し、其(それ)をして自ら其の然る所以を覚えざらしむべし。此を之得たりと為す。〔『言志録』第181条〕

【意訳】
人の心の機微は常に一定というわけではない。時には勧誘したり、時には禁止したりするのは順当な方法である。導くことでかえって阻害したり、抑えようとしてかえって盛んになることは逆の方法である。そういう意味で人を治める方法は、その時の趨勢を察し、その軽重をしっかりと見極めて、勢いに乗じて導き、機を見て励ましながら、本人自身はそれが人から誘導されたり、激励されたわけではなく、自分の意志でそうなったのだと思わせるのがよい。これを人を動かす方法を会得したというのである。

【一日一斎物語的解釈】
人を教え導くのに確実な方法などない。臨機応変にその時、その人に適したオーダーメードの指導が必要となる。人を動かすコツは、実際にはこちらが導いていながら、当の本人はそれに気づかず、自分の意思で行動したと思い込ませることである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業1課の清水さんに声をかけられたようです。

「話したいことって何だ? まさか会社を辞めるとか言い出すんじゃないだろうな?!」

「この年齢で拾ってくれるところなんてないぜ。それに俺の性格を知ってるだろう」

「たしかに、お前みたいなやっかいな奴の面倒を見るのはご免だな」

「ちっ、あんたにだけは言われたくないぜ(笑)」

「で、用件は?」

「いや、後輩を指導するのって、めちゃくちゃ難しいなと思ってさ」

「ははは、そいつは人の上に立つとまず最初にぶち当たる壁だな」

「そうなのか?」

「なぁ、清水。突然、お前のところに飛び込みの営業マンがやって来て、欲しくもない商品を一所懸命に説明されたらどう思う?」

「そりゃ、ウザイ野郎だなと思うだろうな」

「それだよ。後輩も同じことを思っているんじゃないか?」

「え?」

「欲しくもないアドバイスをされたり、聞きたくもない説教を聞かされたら誰だって嫌だろ?」

「なるほどな。じゃあ、どうすればアドバイスを聞いてくれるんだ?」

「理想的には、相手が聞きに来るのを待つことだろうな」

「しかし、部下や後輩が、必ず先輩や上司にアドバイスを求めて来るとは限らないだろう」

「その通り。だから、押したり引いたり、気づきを与えたり、時にはわざと見放したりしながら、アドバイスを聞きたいと思うように仕向けるんだよ」

「そうか。俺は聞きたくもないアドバイスをしていたのか。言われてみればそうだな。俺の目から見て気になる点があれば、何でも指摘してやろう。それで嫌われても構わないとは思っていた。だけど、そもそもアドバイス自体を真剣に聴いてもらえていなかったわけか」

「そうだと思うね。俺もその点では苦労したからな。いまでこそ、本田君は素直に俺の意見を聞いてくれるけど、以前は俺に対する不信感が相当強かったからなぁ」

「あんたも課長になるまでは、一匹狼みたいなところがあったもんな」

「お前に言われたくはないけどな(笑)」

「たしかにな(笑)」

「できれば、課題解決のヒントだけを与えて、自分で考えさせるんだ。実はそのヒントが重要な気づきを与えているんだが、当の本人は自分の意志で動いたと思っている。これが最高の教育スタイルだと思うんだ」

「そいつはカッコいいな。そう簡単ではないだろうけど、チャレンジしてみる価値はありそうだ。神坂さん、恩に着るよ!」

「清水、やり方はお前自身で考えんだ。お前流のやり方でな!」

去っていく清水さんの後姿を見ながら、神坂課長は心の中でエールを送ったようです。


ひとりごと

心の耳を閉じている部下に、一所懸命にアドバイスを与えたり、お説教をしたりしていませんか?

かく言う小生は、かつて心の目を閉じ、心の耳を塞いでいる後輩や部下に向かって、一所懸命に語りかけていたのでしょう。

常日頃からメンバーの長所や短所をしっかりと見極め、課題を明確にしておくことは重要です。

その上で、メンバーが心を開き質問をしてきた時、日ごろ感じていた短所に気づかせるように、的確なヒントを与える。

これが理想の教育ではないでしょうか?

もし、具体的にその方法を学びたいのであれば、ぜひ小生が主宰する潤身読書会にご参加ください。


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