今日のことば

原文】
処し難きの事に遇わば、妄動するこを得ざれ。須らく幾の至るを候(うかが)いて之に応ずべし。〔『言志録』第182条〕

【意訳】
解決することが容易でないことに対処するときは、考えもなく無暗に行動してはいけない。すべて機が熟するのを待って対策を打つべきである。

【一日一斎物語的解釈】
難題に対処する際は、心が定まらないうちに動かないことだ。すべてにおいて機が熟するタイミングを見計らって行動すべきである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大学時代の友人、鶴田さんと久しぶりに食事を共にしているようです。

「実はな、神坂。俺は2年前に脱サラをする予定だったんだ」

「マジで? 何をするつもりだったんだ?」

「独立して、今の同僚と二人で小さな旅行代理店をやろうかと考えていたんだ」

「あぁ、その矢先に新型コロナウィルス感染症が一気に蔓延したのか?」

「そういうことだ」

「しかし、開業する前で良かったじゃないか」

「そうだな。今勤めている旅行代理店ですら、かなり厳しい状況に追い込まれているからな。この2年間、ボーナスはゼロだよ」

「それはキツイな」

「実は相棒となるはずだった同僚がかなりイケイケでな。俺の心が定まらないうちに、どんどん話が進んでしまっていたんだ」

「そんな状況で開業しなくて良かったじゃないか!」

「妻にも相談できていなくてな。かといってもう後には戻れないような状況に追い込まれてしまって......」

「それでどうしたんだ?」

「一番、尊敬して、信頼もしている上司に正直に打ち明けたんだ」

「なるほど、それで?」

「『心が定まらないうちに動くな。機が熟すタイミングを待って行動しろ!』と言われた。それで、決心がついて、相棒に断わりを入れた」

「相棒の反応は?」

「ブチ切れられたよ。そして、そいつはひとりで開業してしまった」

「開業したのか?! で、今は?」

「コロナのお陰でツアーも組めず、結局1年で廃業して、今は就職活動中らしい」

「そうか、気の毒なことをしたな」

「もっと早く結論を下していれば、あいつの開業も止められたかも知れないからな。しかし、上司が言ってくれたように、いつかは機が熟すと信じている。その時には、今度はこっちからそいつを誘うつもりだよ」

「受けてくれるかな?」

「わからない。でも、声はかけたい。一緒に描いた夢を夢のままで終わらせたくはないからな」

「そうか。じゃあ、俺は、お前たちが開業したら、最初の客になろう!」

「それはありがたい。『豪華客船で行く世界一周の船旅なんてどうだ?」

「いや、それはちょっと。ちなみに、それっておいくらぐらいのツアーなんだ?」

「2000万円くらいじゃないかな?」

「ゴメン、そっちはキャンセルして、バスでいく東海地方のグルメツアーに変更してくれないか?」


ひとりごと

心に迷いを抱いたまま取り組んでも、良い結果は生まれないでしょう。

夢は描きつつ、今目の前にある仕事に全力を尽くす。

すると、機が熟したかのように、次のステージが向こうの方から迎えにきてくれるのではないでしょうか?


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