今日のことば

原文】
人を教うる者、要は須らく其の志を責むべし。聒聒(かつかつ)として口に騰(のぼ)すとも、益無きなり。〔『言志録』第184条〕

【意訳】
人を教える立場にある者は、すべてを自分の志に帰するべきである。やたらと騒ぎ立ててみても、まったく無駄なことである。

【一日一斎物語的解釈】
人に何かを教える立場にある人は、自分の志に忠実であるべきである。志がブレたまま言葉を連ねても、自分の思うようには相手に伝わらないものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、元同僚・西郷さん主催の読書会に参加した後、二人で飲んでいるようです。

「サイさんに解説してもらうと、孔子の指導方法の凄さがよく理解できます」

「やはり偉大な教育者だよね」

「はい。決して本人の欠点を直接指摘せずに、昔の偉人や君子という架空の人物を例に出して、間接的に指摘する。あのやり方はお見事ですね」

「現役のマネージャーである神坂君には、とても参考になるでしょう?」

「はい。でも、サイさんに解説してもらわなければ、こんなふうには理解できなかったと思います」

「お役に立てて嬉しいよ。ところで、神坂君。なぜ、孔子の指導は弟子たちの心に響くのだと思う?」

「え、何ででしょう? もちろん、高度な技術を使っているんでしょうけれど、それだけではないような気がします」

「さすがだね。以前の回で、孔子が『詩経』のことをたった一言で言い表していたことを覚えているかな?」

「あー、なんでしたっけ。あ、そうだ、『思い邪(よこしま)なし』でしたね!」

「大正解!」

「それが孔子の教育と何か関係があるのですか?」

「孔子の教育に対する思いに邪念がなく、まっすぐな思いをぶつけているからこそ、教えが弟子たちの心に響くんだと思っているんだ」

「なるほど。たしかに、上司に利己心や雑念があったら、部下はちゃんとそれを察知しますからね」

「うん、お客様の課題解決のお手伝いをしたい、という軸をブラさずに、上からアドバイスするのではなく、一緒に解決する姿勢であることが大事だね」

「そういえば、サイさんが現役のときは、いつもそうだったなぁ。私に寄り添って、私が肚落ちして結論を出すまで、根気強くお付き合いしてくれましたね」

「答えを出せるのは、課題を抱える本人だけだからね」

「サイさんからの教えで一番心に残っているのはそこです。『我々はお客様の課題そのものは解決できない。あくまでも解決のお手伝いをするだけであって、解決できるのはお客様ご本人でしかないのだ』という教えは、今でも私の軸になっています」

「嬉しいな。それこそが私の現役時代の志そのものだった気がするよ」

「サイさんは常に後輩や部下のことを真剣に考えてくれました。その思いはまさに『思い邪なし』でしたよ。まさに孔子の教育スタイルを実践されていたんですね!」

「恐縮です(笑)」

「今回も大切なことに気づかせて頂きました。やはり、自分の思いに邪念があったらダメですね。『思い邪なし』、この思いでメンバーと真正面からぶつかっていきますよ!」


ひとりごと

人を教える立場にある者は、教育における本末を間違ってはいけない、という教えでしょう。

営業同様、教育においても技術を習得することは大切なことです。

しかし、技術だけで人を動かすことはできません。

最後は、思い、情といったものが、相手の心を動かすのです。

だからこそ、堅固な志を抱き、自分の目の前にいる学ぶ者の成長をだけ考えて、まっすぐに思いをぶつけていく。

これぞ、「思い邪なし」なのでしょう!


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