今日のことば

【原文】
(しん)は鍼(しん)なり、心の鍼なり。非幾纔(わず)かに動けば、即便(すなわ)ち之を箴すれば可なり。増長するに至りては、則ち効を得ること或いは少なし。余刺鍼(ししん)を好む。気体稍(やや)清快ならざるに値(あ)えば、輒(すなわ)ち早く心下を刺すこと十数鍼なれば、則ち病未だ成らずして潰す。因って此の理を悟る。〔『言志後録』第91章〕

【意訳】
戒め(箴言)は心に対する鍼のようなものである。心に不善の兆しがわずかに芽生えたならば、すぐに鍼を据えれば良い。不善の念が増長してしまえば、その効力は限定的となろう。私は鍼治療を好む。気持ちや体にやや不快感を覚えたならば、すぐにみぞおち辺りに鍼を十数本刺すことで、病気になることを未然に防いでいる。そこからこの理を得たのだ

【一日一斎物語的解釈】
箴言というのは、心の病の予防薬のようなものである。常に整理して心にしまっておけば、ビジネスを円滑に進めることに役に立つ


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行中のようです。

「課長はなぜ佐藤部長の言うことだけはよく聞くんですか?」

「お前な、佐藤部長の言うことだけ聞くって、それじゃ他の人のいう事は聞かないみたいじゃないか!」

「違いますか?」

「昼飯に毒入れるぞ!」

「誰だって、叱られたり、注意されるのって嫌ですよね。でも、神坂課長は佐藤部長の話はすごく真剣に聞いている気がします」

「佐藤部長だけじゃないことは、もう1回言っておく。その上で今の言葉に対する返事をするなら、やはりあの人の話には説得力があるからだろうな」

「厳しいことを言われてもですか?」

「最初はムカつくことが多かったよ。でもさ、冷静になって考えると、佐藤部長の言うとおりだなって思えるんだよ」

「何が違うんですかね?」

「言い方がソフトであることや、話す事例がわかりやすいというのはあるだろうな」

「例え話がズレてると理解しづらいですよね」

「そうなんだよ。厳しい戒めの言葉というのは、針治療みたいなものなんだ。針を刺された時は痛いんだけど、後で患部がすっきりと治ってしまう。あの感覚に似ているんだよな」

「針治療はやったことないですけど、整体ならあります」

「まぁ、似たようなものだろう。いや、場合によっては整体の方が近いかもな。図星で自分の問題点を指摘されたときは、針に刺された程度の痛みじゃないもんな。まさに整体師に体をグリグリされている感覚かもな」

「めっちゃ痛いですよね」

「そう、痛いから効くんだよ」

「叱られるのもそれと同じなんですね?」

「そういうことに気づいたんだよ。お前は俺に叱られるとムカつくか?」

「一番頭に来ます!」

「そこが俺の課題だな。言い方が良くないんだろうな?」

「絶対そうです!」

「ちっ、俺は今のお前のその言葉が、まるで整体師のグリグリみたいに俺の心を痛めつけている」

「でも、私も後で考えると、たしかにそうだなって思う事が多いです」

「あ、本当か?」

「はい。課長の例え話はすごく分かりやすいので、後で思い出すと、肚に落ちます」

「そうか、それは何よりの誉め言葉だな」

「あとは言い方をソフトにするんですね!」

「何でお前に上から言われなきゃいけないんだよ! 飯に毒入れるぞ!」

「そういう大人気ないところが、もうひとつの課題かなぁ」

「調子に乗るな!!」


ひとりごと

箴は鍼なり、心の鍼なり。

小生の好きな言葉のひとつです。

良薬口に苦し、と相通ずる言葉ですね。

誰しも叱責されたり、指導されることは、心地よいものではないでしょう。

しかし、その人が自分のためを思って、あえて嫌われることを覚悟してでも言ってくれるなら、それほど有難いことはありませんね。


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