今日のことば

【原文】
天を以て得る者は固く、人を以て得る者は脆し。〔『言志後録』第94章〕

【意訳】
自然の道理に従って得たものは確実なものであり、これに対して、人為的に得たものは脆くて弱いものである。

【一日一斎物語的解釈】
自分の力に見合った地位や富を得るのでなければ、仮に一時的にそれを手に入れても永続きはしない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、相原会長に誘われてランチに出かけたようです。

「お昼から鰻でもいかが?」

「いいですね。期末で忙しくて、ちょっと疲れていたので有難いです」

二人は、ひつまぶしを頼んだようです。

「やっぱりここの鰻は格別ですね。さすがは100年以上続く老舗だけのことはあります」

「ちょっとお高いけどね(笑)」

「そういえば、Y社の権力争いはまだ続いているらしいですね。まさに泥沼状態みたいです」

「そんな噂を聞くね」

「地位や名誉ってそんなに欲しいですかね? 私は生活できるだけのお金を稼げたら、地位や名誉よりもお客様の笑顔の方が価値があると思うんですけど」

「本当だよね。私も会長というポストにしがみつく気は更々ないよ。いつでも神坂君に譲るよ」

「ははは。会長、譲る相手を完全に間違っています」

「これは失敬。でも私は思うんだよね。何事も無理をして手に入れたものというのは、結局すぐに手元からスルりと抜け落ちてしまうんじゃないかとね」

「無理をすれば、必ずどこかにしわ寄せが来ますもんね」

「うん。天の時、地の利を得たものは強固だろうけど、無理をして得たものは脆く儚いものだよね、きっと」

「はい。地位なんてものは、自分からつかみ取るのではなくて、自然と押し出されてなるものだと思います」

「そうだね。まずは目の前のお客様を喜ばせることだけを考える。それを誰よりも真摯にやり切った人が自然と押し出されて人の上に立つ。これが理想だよね」

「まさに相原会長のように!」

「あれ、そんなことを言われたら、私の自慢話みたいになっちゃうじゃない(笑)」

「違うんですか?」

「勘弁してよ、神坂君!!」


ひとりごと

天の道に適ったやり方で手に入れた地位や名誉は強固ですが、力ずくで奪い取ったものは脆いものだ、と一斎先生は言います。

孔子も、「不義にして富み且つ貴きは我において浮雲のごとし」と言い切っています。

無理をすれば、必ず反動が来ます。

天を味方につけて、一歩一歩確実に我が眼の前の道を進むのみです。


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