今日のことば
【原文】
人情は水の如し。之をして平波穏流の如くならしむるを得たりと為す。若し然らずして之を激し之を壅(ふさ)がば、忽ち狂瀾怒濤を起さん。懼れざる可けんや。〔『言志後録』第169章〕
【意訳】
人情とはいわば水のようなものである。平穏で波立たせないようにすることが最も良いことである。もし刺激したり押さえ込んだりすれば、たちまち恐ろしいほど荒波となって暴れまくるであろう。慎重に取り扱わないわけにはいかない。
【一日一斎物語的解釈】
人の感情は水の流れのようなもので、無理に刺激をしたり押さえ込んだりすれば、激流となって襲い掛かってくる。常にゆったりとした流れをつくるように接することが重要である。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、佐藤部長と同行しているようです。
「今更ですが、聞きたいことがあります」
「はい、なんでしょう?」
「部長は、若い頃の私をすごく上手にあしらっていたと思うんです。瞬間湯沸かし器みたいにすぐに熱くなる私が、部長の前ではほとんどそういう状況になったことがないように思うんですよね」
「ははは。たしかに今更の質問だね!」
「いや、ずっと気にはなっていたんです。もちろん、私が課長になってからではありますけど」
「課長になって、どんな心境の変化があったの?」
「幸い、私の課のメンバーには、以前の私みたいな面倒な奴はいません。でも、もしそういう部下がいたら、私はどう対処するだろうか?と考えるようになったんです」
「そうしたら、私のことが思い出されたわけね?」
「はい。私なら部下がキレてきたら、その倍くらいキレて対応してしまうかも知れません」
「ははは、今の神坂君なら大丈夫じゃない? 石崎君をうまくいなしていると思うよ」
「以前の私に比べれば、石崎なんて可愛いもんですよ」
「コツは水の流れを意識することだね。たとえば、少し大きな川を想像して欲しいんだ」
「川の流れですか?」
「うん。水は高い所から低い所へ流れていくよね。川であれば上流から下流へと」
「はい」
「しかし、途中に大きな石を置いたらどうなる?」
「せき止められたところでは、水が勢いを増していきますね」
「うん。硬い石でもいつかは砕いてしまうくらいのパワーを持っているのが水の流れなんだ」
「なるほど。気持ちをせき止めずに上手に開放していたわけですね?」
「そういう意識をしていた。神坂君の主張をいきなり否定するわけではなく、まずは聞き流す。そのうえで、神坂君が自ら過ちに気づくように、話しをもっていこうと努力していたよ」
「なるほど、一旦受け流すのか。勉強になります。いつか、そういう場面があったら意識してみます」
「うん」
「たしかにあの頃の私はせき止められた濁流みたいな存在だったのかも知れません…」
「もっと若い時にそのことに気付いてほしかったなぁ(笑)」
「あ、それはたしかにそうですけど、課長になるまでは全く気づかずで…」
「冗談だよ。神坂君のお陰で私もたくさん学ぶことができたからね。今は感謝しているくらいだよ」
「今は、ですね(笑)」
ひとりごと
人間の感情を水の流れに喩えた一斎先生のこの章句は、名句のひとつですね。
たしかに、感情はせき止められると爆発しがちです。
人の上に立つ者は、すこしずつでも感情を発露できる場所や環境を提供してあげることも重要な任務かも知れません。
そして、自らもそうした場所を持っておくことが重要です。
それが、いわゆるサードプレイスです。
小生の主査する潤身読書会も社会人の皆さんにそういう場を提供することを使命のひとつと考えて運営しています。
