今日のことば
【原文】
「心躁なれば則ち動くこと妄、心蕩なれば則ち視ること浮(ふ)、心歉(けん)なれば則ち気餒(う)え、心忽なれば則ち貌(かたち)惰り、心傲なれば則ち色矜(ほこ)る」。昔人(せきじん)嘗て此の言有り。之を誦して覚えず惕然(てきぜん)たり。〔『言志後録』第219章〕
*「」内は、王陽明のことば
【意訳】
「心が騒げば動きも乱れる、心にしまりがないと見ることも落ちつきを失い、心が充実していないと気がおとろえ、心がおろそかであると表情もしまらず、心が傲慢であると顔色にも驕りがみえてしまう」。昔の人はかつてこう言った。これを暗誦して思わず恐れ慎まざるを得ない。
【一日一斎物語的解釈】
なるべく心を平静に保つことが、物事を首尾よく運ぶための秘訣である。人と接するときは、喜怒哀楽を表に出さない努力をすべきだ。
今日のストーリー
神坂課長が出社したばかりの善久君に声をかけたようです。
「どうした、あまり顔色がよくないな」
「えっ、わかりますか?」
「営業人は、相手の表情だけで心を読めるようになって一人前なんだよ」
「すごいですね。なるべく表情には出さないつもりでいたんですけど」
「なにがあったんだ。女にフラれたか?」
「図星です……」
「あ、ゴメン。まさか、当たっちゃうとは……」
「心が読めるなら、そこまで読んでくださいよ!」
「たしかに(笑)」
「私は結婚まで考えていたんですけど、まさか彼女の誕生日にフラれるとは思いませんでした」
「ドタキャンか?」
「はい。レストランで待ち合わせていたんですけど、10分前に電話があって、『別れてください』って」
「それ……」
「わかっています。たぶん別の男と誕生日をお祝いしたんだと思います」
「だよな」
「でも、それと仕事は別なので、しっかりやろうと思って出社したんですけどね(笑)」
「お前、偉いな。俺なら3日は休むな」
「え、休んでいいんですか?」
「『いいんですか?』って聞かれると、イエスとは言いづらいけどさ。昔、俺は3日休んだ気がする」
「神坂さん、5日ですよ、5日!」
大累課長です。
「かもしれない(笑) だから、お前は偉いなと思ったわけだ」
「私だって休みたかったですけど、休んでもかえってそのことばかり考えてしまいそうで……」
「そうだよな。実際、気をつけろよ。考えごとをしながらの運転は危険だぞ。気持ちが落ちていると、注意力も散漫になるからな」
「今日は納品もないので、電車で移動します」
「それがいいな。そんな表情じゃ、看護師さんたちに心配させてしまうかもな」
「はい。N記念病院の看護師さんたちは、神坂課長のパワハラには気をつけなさいといつも言ってくれているので(笑)」
「あのババアども! もう二度とケーキの差し入れをしないと言っておけ!」
「やっぱり来てよかったです。神坂課長と話をしていたら、すこし気持ちが楽になりました(笑)」
「そうか、それはよかった。でもな、善久」
「はい、何ですか?」
「あのババアどもには、ちゃんと伝えておけよ!」
「マジで、怒ってるんですか?」
「気分が悪くて事故を起こしそうだ!」
「課長も電車にしますか(笑)」
ひとりごと
表情というのは、見事に心を表わすもののようです。
自分自身はいくら取り繕っているつもりでも、ちゃんと相手には見透かされています。
だからこそ、心を平静に保つ努力が必要なのでしょう。
禍福終始を知って惑わない心をつくる。