今日のことば

【原文】
齢五十の比(ころ)、閲歴日久しく、練磨已に多し。聖人に在りては知命と為し、常人に於いても、亦政治の事に従う時候と為す。然も世態習熟し、驕慢を生じ易きを以て、則ち其の晩節を失うも、亦此の時候に在り。慎まざる可けんや。余は文政辛巳(しんし)を以て、美濃の鉈尾(なたお)に往きて、七世・八世の祖の故墟(こきょ)を訪(と)い、京師に抵(いた)りて、五世・六世の祖の墳墓を展し、帰途東濃の巌邑(いわむら)に過(よ)ぎりて、女兄に謁(えっ)す。時に齢適(まさ)に五十。因て、益々自警を加え、今年に至りて犬馬の齢六十有六なり。疾病無く事故無く首領を保全せり。蓋し誘衷(ゆうちゅう)の然らしむるならん。一に何ぞ幸なるや。〔『言志後録』第241章〕

【意訳】
年齢が五十歳になる頃には、多くのことを経験して積み重ね、かなりのことに習熟してくるものである。聖人(孔子)においては天命を知る頃であり、通常の人でも政治に従事する時期であろう。しかも世間ずれをなしたり、驕りの心が生じて晩節を失うのもこの時期においてであろう。大いに慎まなければならない。私は文政四年に美濃の鉈尾(今の岐阜県美濃市)に赴き七代、八代の先祖の昔の館址を訪れ、京都に出て五代、六代の墓を参り、その帰途に東濃の巌邑(現岐阜県恵那市岩村町)に寄って姉に会った。それがちょうど五十歳の頃であった。それから益々自警して今年六十六歳となった。病気もなく事故にも遭わず一命を全うしてきた。これは天がまごころをもって自分をよい方向に導いてくれたお陰であろう。なんと幸せなことであろうか

【一日一斎物語的解釈】
五十歳になる頃は、経験を積んで大きな仕事ができる時期である半面、驕りや勘違いによって晩節を汚すきっかけとなる時期でもある。細心の注意を払って、仕事や人付き合いに臨む必要がある。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、読書会に参加した大西さんと食事をしているようです。

「大西さんはなぜ『論語』を学ぼうと思ったのですか?」

「実は私、以前の職場でパワハラで部下から訴えられましてね。その会社に残っても大好きな営業ができなくなることになって転職をしたんです」

「おぉ、パワハラをした人から直接話を聞くのは初めてです」

「でしょうね(笑) それで、転職するにあたって、いろいろ考えたんです。自分で振り返ってみても、自分の言動がパワハラであったことは認めます」

「そこは素直に(笑)」

「はい。でもね、私は部下たちが嫌いだったり、憎かったりしたわけではないんです。なんとか全員が結果を出して喜び合えるチームを作りたかっただけなんです」

「それは私も同じです」

「その結果、あきらかに行き過ぎた指導をしてしまったんです。ですから、私の想いそのものは間違っていないと信じたかった」

「絶対に間違いじゃないですよ!」

「ありがとうございます。それで、この気持ちを1ミリも削らずに、伝え方だけを変えようと決心したんです」

「なるほど」

「そして『論語』にめぐり会い、孔子の弟子に対する指導方法がなによりのお手本になると確信したんです」

「そういうことだったのですか。すみません、いやな事を思い出させてしまって」

「いえ、このことは忘れてはいけないことです。だから、時々こうして話をすることにしています」

「おいくつの時だったのですか?」

「四十二歳のときです」

「あー、今の私とほとんど変わらない年齢ですね?」

「はい。その頃は、イケイケでした。何をやっても結果さえ出せば良いと思っていましたからね」

「私も似たような性格です(笑)」

「神坂さん、気をつけてくださいね。熱い想いだけでは、マネジメントはできませんから!」

「はい。それで私もサイさんから『論語』を学んでいます」

「すばらしい! 『論語』をしっかり学べば、絶対に大丈夫ですよ! 私ももう少し早く『論語』にめぐり会っていれば、人生が変わったかも知れない」

「…」

「でもね、今はその事があったからこそ本当のマネジメントができる機会を得たのだと思っています。今はまだ後悔の念が完全に晴れたわけではありませんが、十年、いや二十年後に振りかえって、あの出来事は自分にとって最善だと思える時がくるように、今をしっかり生きようと思っています」

「大西さん、感動しました。私も大西さんに負けないように、日々を精一杯生きますよ!」

「くれぐれもパワハラには注意してくださいね!」


ひとりごと

四十代から五十歳になる頃は、人生で一番脂の乗った時期であり、大きな仕事での成果を残せるのはこの時期です。

しかし、その反面、調子に乗って大きな失敗を犯すのもこの時期です。

上記のストーリーは、ほぼ小生の実話です。(ややカッコよく脚色していますが)

思い通りになることが多いからこそ、より慎重に仕事を進めねばならないのが、この時期なのです。


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