今日のことば

【原文】
孟子の三楽、第一楽は親に事(つか)うるを説く。少年の時の事に似たり。第二楽は己を成すを説く。中年の時に似たり。第三楽は物を成すを説く。老年の時に似たり。余自ら顧(おも)うに、齢已に桑楡(そうゆ)なり。父母兄弟皆亡す。何の楽か之有らんと。但だ自ら思察するに、我が身は即ち父母の遺体にして、兄弟も亦同一気になれば、則ち我れ今自ら養い自ら慎み、虧かず辱めざるは、則ち以て親に事うるに当つ可き歟(か)。英才を教育するに至りては、固より我が能くし易きに非ず。然れども亦以て己を尽くさざる可けんや。独り怍(は)じず愧じざるは、則ち止(ただ)に中年の時の事なるのみならず、而も少より老に至るまで、一生の愛用なれば、当に慎みて之を守り、夙夜(しゅくや)(わす)れざるべし。是の如くんば、則ち三楽皆以て終身の事と為す可し。〔『言志後録』第244章〕

【意訳】
『孟子』尽心上篇には「三楽」が掲載されている。第一の楽しみは親に仕えることを挙げており、これは少年時代に当てはまる。第二の楽しみは自分を完成させることを説いており、これは中年の世代に当てはまる。第三の楽しみとして人材の育成を説いているが、これは老年の時代に当てはまる。私は自らを顧みて思うことがある。すでに自分も晩年期を迎え、父母兄弟は皆死んでしまった。何の楽しみが残っていようか。ただ自ら考えてみれば、『孝経』にあるように、私の身体は父母の遺体であり、兄弟もみな同様であるから、我が身を養い、慎み深くして、落度をなくし天に恥じない生活をすることが、親に仕えることに当たるのではないか。人材を育成するにおいては、私が容易にできることではないが、まず己を尽くすべきであろう。天に恥じない行ないをすることは、ただ中年の時だけに限らず、少年時代から老年に至るまで、一生のことであるから、慎んで守っていくべきであり、早朝から夜に至るまで忘れてはならないことである。そう考えてみると、結局『孟子』の三楽は一生のこととしていかねばならないのであろう

【一日一斎物語的解釈】
親孝行・自己修養・人材育成、この3つを一生涯の仕事とし、決して疎かにしてはいけない

今日のストーリー

今日の神坂課長は、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生を訪れたようです。

「神坂君、人生を通して大切にすべきことが3つあるのを知っているかな?」

「いえ、知りません」

「答えてみてよ」

「そうですねぇ。仕事、家族、趣味ですか?」

「なるほど、その3つも素晴らしいなぁ」

「ということは不正解なんですね(笑)」

「不正解とまで言うのは違うかな。孟子が三つの楽しみについて触れていてね、その三つというのは、親孝行・自己修養・人材育成なんだ」

「勉強になります。でも、先生。ある程度年齢が高くなると親はいなくなってしまって、親孝行はできなくなりませんか?」

「いや、実は親がいなくなったときから最後の親孝行の時期に入るんだよ」

「どういうことでしょうか?」

「『わが身は父母の遺体』という言葉を聞いたことがないかな?」

「あー、あります。たしか『孝経』の言葉だと聞いています」

「そのとおり。つまり年老いた身体をいたわり、なるべく損なわずにお返しするということが、親孝行の締めくくりになるんだよ」

「あぁ、そういうことですか。私はまだ両親が健在なので、いまのうちに親孝行をしておかないと後で後悔しますよね?」

「うん、必ず後悔するよ」

「あとの2つ、自己修養と人材育成は、まさに私自身の課題です」

「うん。そもそも自己修養しない人が、人を導けるわけがないからね」

「耳が痛いです。ちょっと気づくのが遅すぎた感もありますが、それでもあきらめずコツコツやって、今までの遅れを取り戻すつもりです!」

「すばらしいね。私もまだまだ人のお役に立てるのではないかと思っている。だからこそ、名誉院長の職をお受けして、患者様から信頼される医師づくりに少しでも力を尽くしたいと考えたんだ」

「私の周りには、いくつになっても学びをやめない素晴らしい先輩がたくさんいらっしゃいます。ありがたいことです」

「三十年後には、神坂君がそういう言い方をされるように精進しないとね!」

「そんなことを言ってもらえる日がくるとは、今はまだ想像できませんが、そんな背中を見せられるように、日々を大切にしていろいろなことに取り組んでいきます!!」


ひとりごと

親孝行・自己修養・人材育成。

この3つが人生の三大テーマだと、一斎先生は言います。

たしかに終わりなき道を進むようなテーマばかりです。

小生もこの3つを具体的な活動に落とし込んで、残りの人生をこのテーマに懸けてみようと考えています。

232147